研究チームが数値放射伝達シミュレーションを行った結果、金星の雲頂直上の希薄なガス層で、密度が5~10%変動する構造があれば、観測された偏光パターンを説明できることがわかった。 最も妥当な物理的解釈は、このリングが大気重力波――水面に広がる波紋のように、上層大気を伝播する波状の密度ゆらぎ――であるというものだ。
この発見が「確定された新現象」ではなく「候補的検出(candidate detection)」と表現されるのには、重要な理由がある。ExPoは、このリングがアーカイブデータから発見されるよりも前に、既に解体されてしまったのだ。 つまり、この36分間のデータセットが唯一の観測記録であり、同じ装置での再現実験は不可能。さらに、この信号は他のどの観測機器や探査機によっても独立に確認されていない。
金星の上層大気は、惑星自身の自転よりもはるかに速い速度で回転している。これは「スーパーローテーション(超回転)」と呼ばれ、惑星科学における最大の未解決問題の一つだ。 大気重力波は、この超回転とは逆向きに運動量を運ぶ性質がある。そして高高度で減衰する際、平均風に対して減速の効果を及ぼす。
もしこれらの惑星規模のリングが重力波であると確認されれば、理論的に長らく予測されていた、上層大気における大規模波動活動の直接的な証拠となる。それは、金星のスーパーローテーションを形成・制御する重要なメカニズムの解明につながる可能性を秘めている。 このような波動の検出と特性評価は、金星の大気力学やエネルギー収支のモデルを大幅に改善するはずだ。
今回の偶然の発見は、特殊な装置で取得されたアーカイブデータの価値を改めて浮き彫りにした。研究者たちは現在、既存または将来の観測機器を用いた、金星の偏光観測の標的化を呼びかけている。 もし確認されれば、金星の長年の謎が解けるだけでなく、同様の手法を、直接撮像が不可能な系外惑星の大気研究に応用できる可能性も広がる。