この引き上げ単独でも大きなニュースですが、それ以上に重要なのは、TSMCをとりまく「長期構造的な拡大」というシナリオを裏付ける複合的な材料——過去最高の四半期決算、アナリストのほぼ一致した強気評価、そして前例のない規模の米国投資計画——です。
ニーダムの目標株価引き上げは、評価の基準を2028年の収益に移した点で象徴的です。同社はAIウエハー需要の推計モデルを更新し、NVIDIAやAppleといった主要顧客からの需要をより多く織り込みました。
TSMCは2026年第2四半期において、全主要指標で市場予想を上回る記録的な業績を達成しました。
| 指標 | 実績 | 前年比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 402億ドル | +36% |
| 純利益(NTドル) | 7,065.6億NTドル(約220億ドル) | +77.4% |
| 粗利益率 | 67.7%(過去最高) | — |
| 1株利益(ADRベース) | 4.31ドル | +77.4% |
売上高はガイダンス上限の402億ドルに到達。純利益の77.4%増はここ最近でもっとも強い伸び率です。CEOのC.C.ウェイ氏は、この需要環境を「複数年にわたる構造的なAIアップサイクル」と表現しました。フルガイダンスも2回目の上方修正となり、2026年の売上高成長率は「40%超」に上方修正されています。
ウォール街のTSMC評価は異常なまでに一致しています。16社中12社が「買い」、2社が「強気買い」で、レーティングは事実上「ストロングバイ」です。
| 証券会社 | レーティング | 目標株価 | 日付 |
|---|---|---|---|
| バークレイズ | Overweight(買い) | 650ドル | 7月17日 |
| サスクエハナ | Positive(買い) | 600ドル | 7月17日 |
| BofA証券 | 買い | 590ドル | 6月24日 |
| ニーダム | 買い | 530ドル | 7月27日 |
| DA Davidson | 買い | 500ドル | 7月27日 |
特筆すべきは、バークレイズが目標株価650ドルを設定し、やはり評価モデルを2028年ベースに引き上げていることです。BofA証券も6月24日付で590ドルを設定し、ハイパフォーマンスコンピューティングの強い需要を理由に挙げています。
2026年7月16日、TSMCはアリゾナ州への追加投資1000億ドルを発表しました。これにより米国での総投資額は2650億ドルとなり、米国史上最大の外国直接投資として記録されています。
アリゾナの工場建設に具体的な完工時期は設定されていません。TSMCは「市場の需要によって建設ペースを決める」としていますが、この規模の先行投資は、2027年以降の需要拡大を織り込んだものとみられます。
「業績・設備投資・アナリスト評価」の三拍子がそろった今、TSMCの中期的な成長シナリオは明確に見えてきます。
前もって張られたキャパシティ: アリゾナ工場群と拡大された設備投資計画は、複数年かけて建設されるもの。これにより、アナリストが予想する2027年〜2028年のAI半導体需要の継続的な拡大を吸収する体制が整います。ニーダムの試算では、2027年の設備投資は800億ドル、2028年は900億ドルと巨額にのぼります。
2028年までの収益の見通し: ニーダム、バークレイズ、サスクエハナなど複数の主要アナリストが評価モデルを2028年ベースに先送りしている事実は、単年のバブルではなく、明確な複数年の成長軌道があるという確信の表れです。
景気循環ではなく構造的需要: 過去最高の粗利益率、上方修正されるガイダンス、そして前例のない米国投資——これらすべてが、経営陣とアナリストの「構造的な拡大期」という認識を物語っています。TSMC自身は2030年までにAI関連売上高で900億ドルを想定しています。
最大のリスクは地政学: とはいえ、TSMCの最先端製造の大部分は依然として台湾に集中しています。アリゾナ工場の建設が進んでも、台湾海峡をめぐる緊張が本格化すれば、2027〜2028年の見通しは大きく揺らぐ可能性があります。
ニーダムによる530ドルへの目標株価引き上げは、強気のアナリストコンセンサスの中の一事例にすぎません。しかし、そのモデルを2028年に先送りした点にこそ、TSMCのAI主導の成長が「1年限りの現象」ではないという核心的なテーゼが現れています。
記録的なQ2決算、1000億ドル追加の米国製造拠点、そして数十年にわたる高水準の設備投資を予想するアナリストのコンセンサス——これらすべてが、景気循環ではなく構造的な需要に応えるために積極的に投資する企業の姿を描き出しています。
2027〜2028年を見据える投資家にとって、問題は「需要が持続するか」ではなく「TSMCが空前の拡大計画を地政学的リスクよりも速く実行できるか」に移っていると言えるでしょう。