これに連動して原油相場も急落した。ブレント原油は7月27日に4.1%(3.96ドル)下落して1バレル=92.82ドルとなり、翌28日にもさらに2%超下落し86.52ドルまで値を下げた。これは、世界の石油輸送の要衝であるホルムズ海峡の再開への期待が市場に織り込まれた結果だ。
この「停戦→ドル安・ユーロ高」というパターンは今回が初めてではない。2026年3月には停戦期待でドルが軟化し、5月から6月にかけても和平交渉の進展を受けてリスク資産が買われ、ドルは下落していた。
1. 欧州のエネルギーコストは依然として構造的高止まり
IMFの地域経済見通し(ユーロ圏版)によれば、原油価格は紛争前の水準から約50%高いままだ。欧州の天然ガス価格も紛争前に比べて40%高い。EUの産業用エネルギー価格は、2022年以前の水準の約2倍に達しており、米国と比較して大幅に高い——これは慢性的な競争上のハンディキャップとなっている。
欧州中央銀行(ECB)の報告によると、2026年4月のユーロ圏の年間ヘッドラインインフレ率は3%に上昇した。これはエネルギー価格が10.9%上昇したことが主因であり、エネルギーを除いたコアインフレ率は2.2%に低下していた。欧州委員会の春季経済見通しでは、2026年のEUのGDP成長率は1.1%、ユーロ圏は0.9%と鈍化し、インフレは高止まりすると予測されている。
2. すでに顕在化している広範な経済的ダメージ
エネルギーショックの本格的な影響が現れる前の2026年1月、ドイツ、イタリア、スペインで鉱工業生産が予想に反してすでに減少していた。ECBの2026年6月のスタッフ予測は「短期的には、エネルギー価格の上昇と不確実性の高まりが内需を圧迫し、成長は低迷する」とし、エネルギーコストの上昇が実質可処分所得を減少させ、消費者マインドを冷え込ませると指摘している。
ドイツ銀行は2026年のユーロ圏GDP成長率予想を、従来の1.1%から0.5%に大幅に下方修正した。これは中東発のエネルギーショックが主因だ。IMFも2026年6月のスタッフ concluding statement で、ユーロ圏の2026年の成長率を0.9%と推定している。
3. 紛争はいつでも再エスカレートする可能性がある
たとえ前向きな和平のシグナルがあっても、市場の動きは慎重なものにとどまっている。Converaのアナリストは、2026年6月の予備的枠組み合意は「慎重な」リスクオン・ムーブを引き起こしたにすぎず、市場は「懐疑的」で履行状況を注視していると指摘した。
UBSのアナリスト、ジョヴァンニ・スタウノヴォ氏は、市場は「さらなるエスカレーションの可能性に引き続き焦点を当てている」とし、持続的な市場センチメントの変化には恒久的な停戦が必要だと述べている。
過去の例が教訓となる。2026年3月の停戦協議中も、トレーダーは「米国のイラン終戦努力に懐疑的」で、為替市場は方向感を欠き、ドルが小幅上昇しユーロはほぼ横ばいだった。また、2026年5月に米イラン協議が停滞すると、ユーロは1.165ドルを割り込み、週間で1%超の下落となった。
4. 長期的な構造的ハンディキャップ
IMFは、ユーロ圏は「中東戦争とそれに伴うエネルギー価格上昇という新たな逆風」に直面しており、この紛争は「大規模だが一時的なマイナスの供給ショック」を意味すると警告している。CEPRの研究では、累積的なエネルギー価格ショックにより、ユーロ圏の潜在成長率は2026年までに、ショックがなかった場合と比較して0.8%押し下げられたと推定している。ハーグ戦略研究センターは、2026年のホルムズ危機を「近代史上最大かつ最も複雑なエネルギーショックであり、欧州エネルギーシステムの深い脆弱性を露呈させた」と評している。
総評:ユーロの「ポーズ後の跳ね返り」は、最悪のホルムズ海峡封鎖シナリオが回避されるかもしれないという純粋な安堵感を反映したものだ。しかし、アナリストは持続的な回復には(a)ホルムズ海峡の航行を確保する恒久的な停戦、(b)欧州の天然ガス価格の大幅な低下、(c)ユーロ圏の成長が底を打ったという証拠——のいずれも確実ではない——が条件になるとみている。