だが、この反発相場は脆い。そもそも6月17日に署名された60日間の暫定停戦合意——イスラマバード合意覚書(MoU)——は、7月8日にトルンプ大統領が「終わった」と宣言し、すでに失効している 。そして7月29日に控える米連邦準備制度理事會(FRB)の利上げ判斷が、このムードを一変させる潛在的な脅威だ。原油が100ドルを超えて急騰した後、市場ではFRBが利上げに踏み切るかどうかを巡り見方が割れている 。
ここでは、実際の市場で何が起こったのか、停戦の現狀、そして歷史的なパターンからこの反発相場の持続性を検証する。
週末の空爆停止は正式な停戦復舊ではなく、あくまで戦術的な一時停止だった。しかし、それだけでいくつかの主要市場で大きな反転が起きた。
原油:7月24日までに13夜連続の米軍空爆でブレント原油は100ドルを突破していた が、この突然の停止を受け、直近の供給途絶プレミアムが一気に解消された。ウエストパック銀行は「パキスタンとイランが米國との新たな和平交渉を模索しているとの報道が市場心理を支えた」と指摘している 。この日の原油下落は、紛爭開始以來最大の日中変動幅だった。
ビットコインと仮想通貨:ビットコインは7月を通じて地政學的な圧力にさらされていた。7月8日の停戦崩壊時には6万1500ドル付近まで下落 。その後、イランが交渉に前向きな姿勢を見せて一時回復したが 、空爆が最も激しかった數日間は6万3000ドルを下回る場面もあった 。今回の週末のデエスカレーションが流れを変えた。ビットコインは過去24時間で約1.2%上昇し6万5000ドルを回復。イーサリアム(ETH)は3%以上上昇し1950ドル近辺に。ソラナ(SOL)やXRPも1~2%の上昇を記録した 。暗號資産(仮想通貨)の時価総額は2兆2900億ドルとなり、0.84%増加した 。
ドル:米ドル指數は逃避需要の後退で弱含んだ。地政學的緊張が緩和した際の典型的なパターンだ 。ドル安は通常、ビットコインなどドル建てリスク資産にとって追い風となる。
市場心理全般:投資家のセンチメントは総じて改善した が、その利益は紛爭で最も打撃を受けていた資産に集中した。なお、ブレント原油は週末の取引終了前から約4%下落して96.7ドル程度で推移しており 、月曜日の4.7%の下落はその流れを引き継いだものだ。
今回の週末の一時停止は、60日間の暫定停戦合意が復活したことを意味しない。6月17日にパキスタンの仲介で署名された14項目からなるイスラマバード合意覚書は、イランの核開発計畫やホルムズ海狹のアクセス権といった難題を棚上げにし、交渉のための60日間の窓口を設けることを目的としていた 。しかし7月8日、トルンプ大統領は「(停戦は)終わった」と宣言し、テヘランとの対話を望まないと述べた 。その後すぐに米軍の空爆が再開された。
ロイター通信が7月13日に報じたところによると、停戦合意は「ホルムズ海狹やその他の問題をめぐる意見の相違」によってすでに弱體化していた 。MoUの第5條は商船の安全な航行を定めていたが、アナリストはその文言が曖昧だと指摘していた 。今回の週末の停止は戦術的なものであり、外交的な進展ではない。米國とイランは互いに攻撃を停止したが、CENTCOM(米中央軍)の海上封鎖は継続されている 。
この違いは市場にとって重要だ。戦術的な一時停止は數時間で覆る可能性がある。一方、停戦が復活するには、確実な遵守が確認されなければならない。封鎖が続き、イランの核開発計畫や制裁をめぐる根本的な対立が解消されない限り、原油の供給途絶プレミアムはいつでも再燃する可能性がある。
連邦公開市場委員會(FOMC)は7月28~29日(火~水)に會議を開き、その結果は日本時間7月30日午前3時に発表される 。政策金利は3.50~3.75%で、2026年1月からこの水準で維持されている 。7月中旬の時點では、トレーダーは今回の會議での利上げ確率を約10%と見ていた。6月のインフレデータが鈍化したためだ 。
しかし、その後の地政學的な背景は大きく変化している。空爆により7月下旬には原油が100ドルを超えたことで、投資家は「今年後半の利上げの可能性に大きく賭けるようになった」 。7月24日までに、CME FedWatchツールが示す7月會議での利上げ確率は、前週の12%から38%に上昇した 。エコノミストの間でも見解は分かれており、ロイターの世論調査では中央値としては金利据え置きが予想されているものの、別の質問では、紛爭が激化して以來これまでにないほど見解が分かれていることが示された 。
このFRBの判斷が市場に與える影響は明らかだ。
學術・市場分析によれば、過去の主要な地政學的紛爭——1990~91年の灣岸戰爭、2003年のイラク戰爭、2022年のロシア・ウクライナ戰爭——には一貫した3段階のパターンが見られる 。
現在の週末の停止は第2段階に當たる。ただし、歐州中央銀行(ECB)は「地政學的出來事と原油価格の関係は明確ではない」と警告している 。つまり、ショックによっては原油価格への影響が短期的で小幅に留まるケースもある。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の研究は、地政學的な原油ショックは「深刻な供給ショックに似ており、通常のショックよりも生産量の減少と価格の急騰を引き起こす」と確認している 。つまり、月曜日の原油下落は、仮に實際の供給途絶がなければ、一時的なものに過ぎない可能性がある。
仮想通貨に限って言えば、ロシア・ウクライナ戰爭およびイスラエル・ガザ紛爭時の學術的証拠は、ビットコインが金(避難資産)とは注目すべき正の相関関係にある一方、原油(景気循環的な商品)とは無視できる程度の負の相関関係にあることを示している 。ロシア・ウクライナ戰爭中には、一部の研究でビットコインが「原油に対する避難資産として金よりも長期的な特性を発揮した」とする結果も報告されており 、別の研究では仮想通貨の避難資産としての役割は「株式に対しては弱く、通貨に対しては強い」とされている 。
今回の空爆停止は、歴史的パターンが予測する通りの市場反応を引き起こした。原油は下落し、ドルは弱含み、ビットコインは上昇した。しかし、これらはいずれも第2段階に過ぎない。第3段階が持続可能な停戦をもたらすのか、それとも本格的な紛爭に逆戻りするのかが、引き続き最大の不確定要素だ。
FOMCの判斷も、その構図にさらなるレイヤーを加える。FRBが金利を據え置けば、マクロ環境は仮想通貨にとって支援的に推移する。逆にサプライズ利上げがあれば、ドルが強含み、ビットコインは圧力を受けるだろう。そして、既に失効した停戦合意がこのまま崩壊すれば、リスクオンの流れは急激に反転する可能性がある。
歷史のパターンは明瞭だ。デエスカレーション相場は通常、數日から數週間持続するが、そのためには持続可能な外交的解決が必要である 。その解決がないまま、あと48時間でFOMCの判斷が下されようとしている。7月27日の反発は、相場の転換點ではなく、あくまで戦術的な息継ぎとして捉えるのが賢明だろう。