「重要なのは、台数と金額の乖離だ」とIDCのリサーチマネージャー、ジテシュ・ウブラニ氏は指摘する。「メーカーは需要の落ち込みより速いペースで価格を引き上げているため、出荷台数が減っても売上高は伸びている」。つまり、PCメーカーは販売台数を減らしながら、1台あたりの価格を大幅に引き上げているという構造だ。
韓国・朝鮮日報(Chosun Biz)の報道によれば、企業向けのリプレース需要は継続したものの、「価格高騰に苦しむ消費者市場の縮小」が成長を阻んだ 。業務用PCを定期的に買い替える法人需要はある程度守られたが、個人消費者によるPCへの discretionary spending(裁量支出)は消滅した。
今回のメモリ不足は、単なる需給バランスの崩れではない。それは、AIデータセンターと民生用電子機器との間で起きている「生産能力の奪い合い(アロケーション戦争)」だ。世界のDRAM生産の95%以上を掌握するサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの3社は、NVIDIA、AMD、GoogleのAIアクセラレーターに使われる高帯域幅メモリ(HBM)に、生産能力を組織的に振り向けている 。
2026年1月、ロイター通信のインターネット取材に応じたサムスン共同CEOのTM Roh氏は、この品不足を「前例がない」と表現 。SKハイニックスは、PC・スマホ向けの供給が「深刻に逼迫する」と警告した
。同社の崔泰源(チェ・テウォン)会長は2026年3月、この供給不足が「2020年代末まで」続く可能性があると発言
。サムスンはAI顧客向けに3年から5年の長期メモリ契約の検討を始めた
。さらに、マイクロンの2026年全HBM供給量は、2026年1月時点で完売しているとCNBCが報じている
。
その波及効果は深刻だ。IDCによれば、2026年のDRAMとNANDの供給成長率はそれぞれ前年比16%と17%にとどまり、過去の標準を大きく下回る 。一部の部品では価格が80~90%高騰し、納期は58週間におよぶ
。メモリ価格は2026年第1四半期だけで約98%上昇したと、ロイターが半導体業界のデータとして伝えている
。
ゴールドマン・サックスは、2026年のDRAM供給不足率を4.9%(過去15年以上で最悪)、2027年を2.5%と予測している 。部品の問題は、今や本格的な需要危機に発展した。Counterpoint Researchのシニアアナリスト、シルピ・ジェイン氏はこう語る。「世界的なメモリ危機は、今やスマートフォン業界に対する最大の重しとして、他のすべての要素を凌駕している」
。
PCが傷を負った程度なら、スマートフォンは内臓をえぐられた。2026年第2四半期の世界スマホ出荷台数は前年比11%減。2013年以来の低水準を記録した(Counterpoint Research調べ)。通年でもIDCは12.9%の縮小を予測し、「かつてない危機」と表現
。Counterpointはさらに厳しい13.9%減を予想しており、これが実現すれば過去最大の年間落ち込みとなる
。
痛みは低価格帯に集中している。150ドル以下のスマートフォンは、市場から消滅するリスクに直面。Transsion(中国の低価格スマホ大手)、Xiaomi、Honorが最も深刻な出荷減少に直面している 。メモリメーカーが高利益のAI向けDRAMを優先するため、エントリーレベルのスマホ向け部品は合理的な価格で確保できなくなっているのだ。Counterpointは「チップメーカーがAIサーバーに注力するなか、低価格帯スマホへの影響が最も顕著」と指摘する
。
2026年6月25日、アップルは全Mac、全iPad、Apple TV、HomePod、HomePod mini、Vision Proを含む14製品の価格を引き上げた 。最も安価なノートPCとして廉価なWindows機やChromebookに対抗する「MacBook Neo」は、599ドルから699ドルへ。Mac Studioは最大1300ドルの値上げ。その他、HomePod miniの30ドル値上げから、上位iPadやMacBook Pro構成の500ドル値上げまで、幅広い製品が影響を受けた
。
値上げの1週間前、ウォール・ストリート・ジャーナルとの独占インタビューに応じたティム・クックCEOは、値上げを「不可避」と表現した。「私たちは、転嫁される大幅なコスト上昇を緩和するために最善を尽くし、これまでは顧客を値上げから守ろうとしてきた。しかし、状況は持続不可能になった」 。クック氏は、メモリチップのコストが前年比で約4倍に膨らんだと述べている
。
なお、iPhone、Apple Watch、AirPodsはこの6月25日の値上げ対象からは外れた 。クック氏は2026年初頭の時点で、投資家向けにメモリ価格が「大幅に」上昇すると警告しており
、2026年半ばの時点でアナリストは、同年秋のiPhone発売サイクルでの値上げを予想している
。
Q2に出荷が減少したのはほぼすべての大手PCメーカーだが、その度合いは一様ではない。市場シェアを伸ばしたのはASUSとアップルだけだった 。アップルはMacBook Neoの好調に支えられ、出荷台数を10.1%伸ばした
。
デル、HP、レノボはいずれも出荷台数が減少。レノボは世界市場シェア首位を維持したものの、業界全体と同様に出荷は縮小した 。中国情勢の緊張とサプライチェーンの混乱が、一部のベンダーにとってメモリ問題をさらに悪化させた
。
パターンは明確だ。部品価格の高騰は、消費者向け discretionary segment に最も大きな打撃を与えた。定期的なリプレースサイクルを運用する法人バイヤーは購入を継続したものの、1台あたりのコストは増加。一方、端末価格の上昇に直面した個人消費者は、購入を手控えた。
IDCは2026年通年の世界PC出荷台数を前年比11.3%減と予測し、状況は段階的に悪化すると見ている。Q4だけで前年同期比20%の減少が見込まれる 。同調査会社は「2027年末までの意味のある改善は期待できない」としている
。
サムスンとSKハイニックスは、メモリチップ不足が2027年以降も続く可能性が高いと警告している。SKハイニックスの崔泰源会長は、不足が2020年代末まで続く可能性があると述べた 。サムスンのメモリ部門トップ、キム・ジェジュン氏は2026年4月、メモリ製品全般の「深刻な不足」が少なくとも2027年まで続くと警告。一部の顧客はすでに2027年までの供給枠を確保しているという
。
平均スマートフォン販売価格(ASP)は2026年に14%上昇し、過去最高の523ドルに達する見込み 。デル、HP、レノボ、ASUSなどのPCメーカーは、メモリの契約価格が15-20%上昇すると警告している
。DRAMとNANDの供給成長率は、ゴールドマン・サックスの予測では2027年まで過去の標準を大きく下回った状態が続く
。
状況が好転する唯一の現実的なきっかけは、民生用DRAM専用の新たな製造能力の大幅な増強だが、大手3社はいずれもそのようなシフトを示唆していない。AIインフラへの投資が現在のペースで続く限り、データセンターと民生機器の間での生産能力の奪い合いは激化する一方だ。
まとめ: 価格高騰、供給制約、出荷台数の減少——この状態がPCとスマートフォン市場で、少なくとも2027年後半まで続くことが確実視されている。法人バイヤーは個人消費者よりも影響が軽いとはいえ、誰も免れることはできない。安価なRAMの時代は、正式に終焉を迎えた。