BofAの警告は、グローバルな中央銀行の統括組織である国際決済銀行(BIS)のガイダンスに真っ向から挑戦するものだ。BISは2026年3月16日、エネルギー価格高騰に中央銀行が過剰反応しないよう明示的に促し、特にショックが短期間で終わる場合には「様子見」が適切である「典型的なケース」であると述べていた。
7月になると、BofAは実質的に、このショックが長期化しすぎたため、そのアプローチはもはや有効ではないと主張した。2026年3月の「G4中央銀行ウィーク」では、金利先物市場はタカ派シフトを織り込んだが、主要中央銀行(FRB、ECB、日本銀行)のいずれも実際に利上げには踏み切らなかった。DBSの分析によれば、石油ショックは「FRBのインフレ対策を複雑化」させ、FRBは2026年と2027年のコアPCEインフレ予測をそれぞれ0.2ポイント、0.1ポイント上方修正した
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ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は、2026年4月の講演でこの緊張関係を認め、「金融政策はエネルギー価格を引き下げることはできない。しかし、エネルギーコストの上昇が、間接的な影響や賃金・インフレ期待を通じた二次的影響により、広範なインフレに波及するリスクがある場合には、それを特定しなければならない」と述べている。
タイは、主要な純石油輸入国として、特に大きな影響を受けている。2026年7月25日、同国の財務政策局(FPO)は2026年のドバイ原油見通しを従来の1バレル91ドルから82ドルに引き下げ、供給リスクの緩和により第4四半期から価格が低下するとの見方を示した。修正後の予測は77〜87ドルの範囲としている
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タイ銀行(中央銀行)の金融政策フォーラム(2026年7月14日)は、ドバイ原油は2026年第2四半期にピークを打ち、その後徐々に低下するが、年末の価格は戦前の水準を上回ると予想。同行の前提ケースでは紛争は2026年上半期に緩和されるが、悪化シナリオでは2026年を通じて供給混乱が続くとしている
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実際の影響は深刻だ。タイのインフレ率は、エネルギーコストと交通費の高騰により、2026年5月に38カ月ぶりの高水準を記録した。政府の計画機関は2つのインフレシナリオを示している。原油価格が急騰した後に下落する場合で1.5〜2.5%、高止まりが3カ月続く場合で2.5〜3.5%としている
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タイのエクニティ・ニティタンプラパス財務相は4月、中東のエネルギーインフラが深刻な被害を受け、石油とガスの供給が安定するまでに1〜2年かかる可能性があると警告していた。国営石油会社PTTは4月、中東紛争が沈静化すれば2026年第3四半期に原油価格は徐々に低下する可能性があるが、輸送中の在庫や代替供給確保の困難さから、即座の下落はないと慎重な見方を示した
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アジア開発銀行(ADB)は、危機の深刻化に伴い今年に入って2度の下方修正を行った。2026年4月の見通しでは、アジア太平洋地域の成長率を5.1%と予想。しかし紛争が長引く中、7月には4.9%に引き下げた。これは2025年の成長率5.5%から低下している
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アジア新興国の地域インフレ率は、2025年の3%から2026年は4.3%と予想。これは4月時点の予測から0.7ポイントの上方修正となる。ADBはこの背景として、中東紛争によるエネルギーとサプライチェーンの長期混乱が生産コストを押し上げ、経済活動を抑制していると明示的に指摘している
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タイに関しては、さらに厳しい見通しだ。ADBの4月の国別報告書では、2026年のGDP成長はさらに鈍化し、2027年に改善すると予想。背景として、世界的な需要の弱まりとエネルギー価格の上昇を挙げている。2026年7月12日のADBのソーシャルメディアへの投稿(非公式情報)は、タイの2026年の成長率をわずか1.8%としている
。2025年9月のADB予測では、既にタイの2026年の成長予想を1.6%にまで引き下げていた
。一方、タイ銀行の2025年第4四半期金融政策報告書は、タイ経済は2026年に1.5%成長に減速すると予想している
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複数の予測が、成長鈍化とインフレ上昇が同時に進行する古典的なスタグフレーションのパターンを指摘している。これは金融政策にとって最も困難な環境であり、インフレ抑制のための利上げはさらなる成長鈍化を招く。BofAの「マイルド・スタグフレーション」という表現は、アジアおよび世界全体に広がる支配的なリスクであるという幅広いコンセンサスの一部だ。
もし原油価格が2026年後半まで高止まりすれば、エネルギー輸入国(特にタイを含む新興アジア諸国)の中央銀行は、減速する成長の中での引締め政策か、インフレ目標超過の容認かという極めて困難な選択を迫られることになる。
不確実性の高さを最も明確に示すのは、原油価格予測の大きな乖離だ。
EIAは、需要の弱さと米イラン間の合意の可能性に関する報道により、ブレント原油は2026年5月に実際に下落したと指摘している。しかし、生産停止と在庫減少により価格は高止まりしている。タイのOil Fund Officeによる紛争前の予測は、景気回復の遅れと供給過剰を理由に、2026年まで原油は1バレル60〜70ドルと想定していた
が、この予測は現在の現実とは大きくかけ離れている。
もしイラン紛争と供給混乱により原油価格が2026年末まで高止まりすれば、エネルギー輸入国の中央銀行は厳しい選択を迫られる。BofAが「様子見」アプローチがもはや成り立たないと警告したことは、このジレンマを明確に示している。すなわち、高いインフレを受け入れるか、あるいは既に減速が見込まれる成長に追い打ちをかける金融引締めに踏み切るか、である。