より広い文脈として、交渉の主導権は明らかに買い手側に傾いている。7月11日以降、ホルムズ海峡を通過したLNG船は1隻もない 。3月18日のイランによるカタール・ラスラファン基地へのミサイル攻撃では、2基のLNGトレインが破壊され、同施設の名目生産能力の17%に相当する部分が推定3~5年にわたり稼働不能となった
。IGU(国際ガス連合)の2026年世界LNG報告書によれば、カタールとUAEを合わせると世界の液化能力の約16%を占めるが、ホルムズ海峡閉鎖によりそのほぼ全量が市場から遮断されている
。
欧州は2026年のガス注入シーズンに、貯蔵量わずか31bcm(容量の約28%)で突入した。これは2018年以来の低水準である 。2026年1月下旬の時点で貯蔵量は既に44%と、当該時期としては複数年来の低水準だった
。7月7日時点でEUの貯蔵量は約50.9%と、過去5年平均を約14%ポイント下回っている
。ドイツに至っては6月初旬時点でわずか33%であり、2022年同時期の50%から大きく低下している
。
エクイノールのCEOは7月22日、ロイターに対し、冬前に80%の貯蔵目標を達成するのは難しいと語った。EUの理想とする90%はなおさらである 。これは、冬を迎える欧州のガスバッファーとしては過去15年で最も脆弱な水準となる
。
カタールとUAEからの供給がほぼ途絶えた中で、欧州とアジアは同じ限られた大西洋盆地の柔軟なLNGカーゴ(主に米国などペルシャ湾以外の生産者からの供給)を追い求めている。アジアの買い手は2026年3月には既にLNGタンカーをアジア向けに迂回させ始めており、スポットカーゴの入札で欧州の買い手を上回っている 。
この競争により、欧州のガス価格は約40%上昇した 。そして、欧州の貯蔵量回復率を直接的に鈍化させている。つまり、アジアに流れる柔軟なカーゴ1隻は、欧州の貯蔵用に注入されるはずだった1隻分が失われることを意味する。
CNBCの報道によれば、カタールの施設への戦争被害は、仮にホルムズ海峡が再開したとしても、数ヶ月にわたり混乱が続くことを示唆しており、大西洋盆地のスポット市場は残りの注入シーズンを通じて逼迫した状態が続くと見られる 。
欧州は今、脆弱な貯蔵量、同じ迂回カーゴを巡るアジアの強い需要、そして頼りにできないカタール・UAEの減退した供給という三重の圧力に閉じ込められている。この二重の圧力こそが、買い手が今、湾岸諸国の生産者に契約の見直しを迫る背景にある構造的な要因である。彼らは、2026/27年の冬を前に、価格の緩和と信頼できる供給の両方を確保しようとしている。交渉の窓は、ホルムズ海峡が閉鎖され、カタールの生産能力が損なわれている間に開かれているのである。