欧州委員会は2026年3月、加盟国に対し貯蔵目標を従来の90%から**80%**に引き下げる柔軟措置の活用を呼びかけていたが、この80%目標さえも手の届かないものになりつつある。
2026年6月は西欧で観測史上最も暑い月となった。多くの都市で記録的な気温を記録し、冷房のための電力需要が急増する一方、火力発電所や原子力発電所の出力抑制を余儀なくされている。EUの家庭における冷房用エネルギー消費は2018年から2024年にかけて2倍に拡大。より多くの電力を賄うためにガス火力発電が増加し、本来夏場に貯蔵に充てるべきガスが発電に消費されている。
フランスの電力需要は4月から7月中旬までの平均が2022年夏以来の高水準に達し、ドイツとフランスでは熱波の1週間だけで電気代が合計7億ユーロ以上も跳ね上がった。英国の電力価格は2026年平均の2倍に急騰。ベルギーでは6月24日、日没時の電力価格が1kWhあたり1ユーロ超という記録を打ち立てた。
米イラン紛争により、LNGタンカーにとって重要な航路であるホルムズ海峡の航行が妨げられている。EUのエネルギー規制機関ACERは、各国が90%の貯蔵目標を逃す最大の要因としてイラン紛争を挙げている。
エクイノールは2026年5月、ホルムズ海峡の混乱が1~3か月続けば欧州のガス在庫は「危機的」になり得ると警告。同社の決算会見では、ホルムズ海峡の情勢により「世界のLNGの約20%が封じ込められており」、欧州は供給の約30%をLNGに依存しているため打撃は甚大だと説明している。
ゴールドマン・サックスは7月21日、2026年第3四半期および第4四半期のTTF価格見通しを従来の41ユーロ/40ユーロから60ユーロ/53ユーロへと大幅に引き上げた。「ホルムズ海峡の輸出回復の遅れ」と「冬場の需給逼迫」を理由に、わずかな誤差も許されないと指摘している。ゴールドマンは、アジアのLNG需要を抑制して欧州向け供給を確保するにはTTFが65ユーロ/MWhまで上昇する必要があるとも分析した。
TTFは2026年3月にもイラン開戦を機に週間で約76%急騰し一時70ユーロ/MWhを付けたが、その後再び上昇に転じ、7月20日に60ユーロ、23日には62.75ユーロに達している。
エクイノールのオペダルCEOは、市場のひっ迫が「アジアなど他地域のバイヤーとの競争を激化させている」と指摘。欧州はもはやスポットLNGでアジアを単純に値段で上回ることができなくなっている。特に中国、インド、韓国の需要は底堅い。エクイノールCFOも5月時点で「欧州と他市場との価格差が不透明」なため、貯蔵に必要な供給量が不足していると説明していた。欧州はアジアからLNGを引き寄せるために割高なプレミアムを支払わざるを得ず、それがTTF価格高騰の直接的な要因となっている。
| 要因 | 欧州ガス市場への影響 |
|---|---|
| 熱波 | 電力部門のガス消費急増 → 夏場の貯蔵注入が圧迫 |
| 米イラン紛争/ホルムズ封鎖 | 主要LNG供給ルート遮断 → ゴールドマンはTTF60ユーロ超の主因と分析 |
| アジアとの競合 | スポットLNGを奪い合い → 欧州は高値で供給確保を強いられTTF上昇 |
欧州委員会のガス調整グループは7月1日時点で「供給安全保障への差し迫った懸念はない」としながらも、貯蔵水準が危機前の平均を下回っていることを認めている。しかし、エクイノール首脳陣の警戒感はより強い。市場は厳しい冬を織り込み始めており、ゴールドマン・サックスはさらなる供給途絶があれば価格が一段と跳ね上がるリスクを警告している。
(本記事は2026年7月23日時点の情報に基づいています)