ムーディーズは2026年7月14日から17日にかけて発表した一連の報告で、エネルギー転換に伴うクリティカルミネラルの需要増加が世界のサプライチェーンを再編し、その戦略的重要性を高めていると指摘する。同社は、この需要急増は、資源豊富な新興国にとって、一次的な鉱物採掘からより高付加価値の精製・加工へと「卒業」する重要な機会を創出すると述べている。
しかし、ムーディーズはこの機会を「容易でも自動的なものでもない」と断じる。報告は、新興国が中間・川下の価値を獲得するスピードと容易さを制限する複数の構造的障壁を挙げている。
インドネシアは、新興国がクリティカルミネラルの価値連鎖を上昇させた最も明確な事例であり、ムーディーズがモデルであり警告として最も顕著に言及する国である。
輸出禁止政策。 2020年1月、ジョコ・ウィドド大統領は未加工ニッケル鉱石の輸出を禁止し、全てのニッケルを国内で加工してから輸出することを義務付けた。この「ダウンストリーミング(川下化、hilirisasi)」戦略はその後ボーキサイトにも拡大され、政府は15の優先川下商品を特定している。
変革の規模。 その結果は劇的だ。ニッケル銑鉄(NPI)の製錬所は2基から44基以上に増加し、累計の川下投資額は約400億米ドルに達した。現在、インドネシアは世界のNPI生産の54%を占め、世界のNPI製錬所の74%が同国にある。ニッケル採掘量は約3倍の年間約200万トンに増加した。ニッケルの輸出額は2020年の14億米ドルから2023年には68億米ドルに上昇した。2024年には加工ニッケル輸出額が340億米ドルに達し、10倍の増加となった。
継続する勢い。 2026年第1四半期の鉱物関連川下投資は98兆インドネシアルピアに達し、ニッケル(41.5兆ルピア)、銅、ボーキサイトが牽引している。インドネシアは現在、世界の精製ニッケル供給の約3分の2を掌握している。
重要な注意点:中国の支配。 独立した評価は一貫して大きな問題を指摘している。新たに増えた能力の圧倒的大部分は、中国企業によって所有・管理されている。中国企業はインドネシアのニッケル製錬所の90%以上を建設し、精製能力約800万トンの約75%を支配し、フェロニッケル輸出額の94%が中国向けである。SOAS(ロンドン大学東洋アフリカ学院)のインドネシアニッケルブームに関するケーススタディは「川下化はインドネシアの産業基盤を構築するために設計された。しかし実際には、インドネシアに中国支配の能力を構築した」と断じている。エネルギーシフト研究所の報告は、インドネシアは「深みのない支配」を達成したと結論付ける。世界最大のニッケル製錬所(Tier 3)を持つが、Tier 2の加工・組立、Tier 1の完成品製造には進出できていない。
精製能力構築競争の背景にある需要側の状況は、UNCTAD(国連貿易開発会議)が2026年6月に発表したクリティカルミネラルに関する『グローバル貿易最新情報』によって提供されている。その数字は stark(厳しい)だ。
国連自体も、クリティカルミネラルを巡る世界の競争における「公正な競争(fair play)」を呼びかけ、資源豊かな開発途上国が新たなバリューチェーンの中心にいる一方、環境負荷を負い限られた利益しか得られないリスクを指摘している。
2025年10月、世界銀行グループの一員である国際金融公社(IFC)とアピアン・キャピタル・アドバイザリーは、新興市場におけるクリティカルミネラル、金属、および鉱山関連プロジェクトの責任ある開発を加速するための10億米ドルのパートナーシップを発表した。IFCは当初1億米ドルを拠出し、ファンドをアンカーする。これはIFCにとって新興市場向け初の専用鉱山関連投資ビークルであり、民間鉱山株式専門会社との初のパートナーシップとなる。このファンドは、世界的なクリティカルミネラル不足とサプライチェーンの集中に対する明確な対応として存在し、民間資本だけでは新興市場のギャップを埋めるのに不十分であったことを物語っている。
エビデンスは、インフラと資金調達のギャップが、新興市場のバリューチェーン上昇能力に対する依然としての制約要因であることを強調している。
複数の情報源は、意図的な産業政策と持続的な投資がなければ、資源豊かな国々はバリューチェーンの底辺に留まるリスクがあると警告している。
ムーディーズの7月17日付「マクロ・ビュー」ページは、防衛、AI、再生可能エネルギー需要に牽引され、クリティカルミネラルサプライチェーン確保への動きが加速しており、各国がサプライチェーン強化に乗り出していると指摘する。米国とその同盟国は、鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)などを通じて中国の精製工程への依存度低減を急いでいる。
IEAの警告は極めて明確である。2026年6月7日付の投資家向け報告書で引用されたIEAのデータによると、中国は多くのクリティカルミネラルサプライチェーンにおいて、世界の精製能力の約47%から87%を支配し、世界のレアアース磁石製造能力の約94%を掌握していると推定される。JPモルガン・グローバル・リサーチもこの状況を補強し、中国が精製レアアースの91%、磁石の92%を供給していると指摘する。IEAは、中国国外での新たな精製能力への投資が、2030年および2050年の需要シナリオを満たすために必要な水準をはるかに下回っており、構造的なサプライチェーン集中リスクを生み出していると繰り返し警告している。
ムーディーズの2026年7月報告は、資源豊富な新興国がクリティカルミネラルのバリューチェーンを上昇するための「機会の窓」が存在することを示している。しかし、それは中国による中間精製工程の圧倒的支配、巨額の資本要件、複数年にわたるリードタイム、そしてインドネシアのニッケル事例が如実に示すように、外国投資が自国の産業能力を構築することなく単に能力を建設するリスクによって、狭められた窓である。チャンスは確かに存在するが、それを掴むには、意図的な産業政策、大規模な国際的資金調達、そして鉱物資源国を何世代にもわたって世界のサプライチェーンの底辺に留めてきた構造的障壁に立ち向かう意志が必要となる。