6月25日から26日にかけて、OpenAIが計画していた大型IPOを2027年まで延期する可能性があると報じられた。同社のアドバイザーは「現在の不安定なテック市場では、IPOに十分な興奮を生み出せない」と警告。CEOのサム・アルトマン氏は「評価額1兆ドル(約160兆円)」にこだわり、それを下回る評価での上場を拒否したとされる。このニュースは即座にテック株全体の売りを誘発し、ソフトバンクグループは12%超下落した。
さらに、この報道はOpenAIの収益構造の脆弱性を浮き彫りにした。Sky Cliffの分析によれば、同社は2025年に130.7億ドルの収益を上げたものの、営業損失は209.2億ドルに上った。研究開発費だけで191.8億ドルを費やしており、AIの「コストが収益を恒久的に上回る」という懐疑論の格好の材料となった。イーヤン・ルカン(Meta AIチーフ)は「AIサービスの価格は上がっているが、運用コストの低下は十分に速くない。ほとんどすべての企業が赤字で、その差額は投資家が負担している」と指摘している。
キオクシアの暴落は、今回の売り相場で最も劇的な単一銘柄のシグナルだ。
暴落の直接的なきっかけのひとつは、7月17日に米テキサス州の連邦陪審がキオクシアに対して特許侵害で2億2900万ドルの支払いを命じた判決だった。しかし、より本質的な要因は、AI向け半導体需要の「ピークアウト懸念」による構造的なリプライシング(再評価)である。
キオクシアの暴落は単独の現象ではない。サムスン電子は6月高値から21%下落、SKハイニックスは25%下落、韓国KOSPI指数は5%超の急落でサーキットブレーカーが発動された。ソフトバンクグループも8%下落した。
特筆すべきは、サムスン電子が2026年第2四半期に前年比1810%の営業利益急増を発表したにもかかわらず、半導体株が同日に急落した点だ。これは「好決算を売り材料にする」(セル・ザ・ニュース)典型的な弱気相場の兆候であり、上昇モメンタムの完全な枯渇を示している。
今回の売り相場の背後には、これまで「神聖視」されてきたAI関連支出そのものへの根本的な疑義が広がっている。
国際決済銀行(BIS)は2026年6月の年次報告で、世界の5大ハイパースケーラー(クラウド大手)が2年間で1兆ドル超をAIインフラに投じ、運転キャッシュフローを債務で補っていると警告した。ゴールドマン・サックスは2026年4月に2本の報告書を発表し、一方のチームは「AIインフラの建設コスト」を分析し、もう一方のチームは「AIマシンが実際に機能しているか」を検証。両チームは全く逆の結論に達し、異例の社内分裂を起こした。
総AI投資額は2026年に2.5兆ドルを超えると予測されている。NVIDIAの株価は3年間で880%以上上昇したが、市場は今、「この巨額のインフラ投資を賄うだけのAI収益が本当に生まれるのか」という証明を求めている。キオクシアの52%の暴落は、いかに「AIの勝ち組」が一瞬で「需要ピークアウト」の教訓話に変わるかを示している。
今回の売りの特徴は、四つのショックが3週間という短期間に集中したことだ。中国のAIモデル、OpenAIのIPO延期、キオクシアの特許判決、BISの警告──それぞれが独立したニュースでありながら、互いに「次のネガティブ材料」を正当化する負の連鎖を形成した。
証拠の重みは、今回の売りが「単なる調整」ではなく、より構造的な「レジーム・チェンジ(局面転換)」である可能性を示唆している。しかし、全ての観測者がバブルと断じているわけではない。AIへの投資を産業革命やインターネット勃興期の過剰投資と比較し、「初期の過剰投資の後には必ず生産性革命が訪れる」と主張する声もある。BIS自身も、投資家は依然として「AIトレードに疑義を唱えることをためらっている」と指摘しており、売りがまだパニック段階に達していないことを示している。
結論として、今回の売りは「強いセンチメント主導の調整」であり、構造的な懸念(オーバーハング)を抱えている。地政学的競争の激化、IPO信頼の低下、旗艦半導体株の50%超の暴落、そして未だ答えの出ない「100兆円の投資対効果」問題──これらの要素が重なり、最初のAI相場の「最終章」の様相を呈している。これが一時的なリセットなのか、長期低落局面の始まりなのかは、AI企業が今後12~18ヶ月の間に、その支出を正当化する収益を実際に生み出せるかどうかにかかっている。