この給付は、現金ボーナスではなく「制限付き株式報酬(Restricted Stock Award)」です。ASMLは公式に「一時的な株式報酬(one-time share award)」と呼んでいます。条件はシンプルで、2027年初めに株式が割り当てられますが、従業員は2030年1月1日まで売却や譲渡ができません。同社は電子メールで従業員に通知し、オランダのニュースサイトEindhovens Dagbladが報じたほか、広報担当者は国営放送NOSに対し、「従業員のこれまでの努力への感謝の証であり、何よりも今後数年間に必要となる仕事への評価」と説明しています。
この株式付与は、2026年7月15日に発表された第2四半期(4~6月期) 決算のわずか2日後に行われました。重要なのは、この決算が2025年第2四半期ではなく、2026年第2四半期である点です。2026年第2四半期の業績は以下の通りです。
同日、ASMLは2026年通期の売上高見通しを430億~450億ユーロに上方修正しました。これは今年2度目の引き上げです。4月にはすでに340億~390億ユーロから360億~400億ユーロに引き上げていました。2026年の粗利益率見通しは54%~56%とされています。同社は、この好調さを「AI向け先端半導体を製造するリソグラフィ装置への極めて強い顧客需要」によるものと説明しています。また、この需要に対応するため、今後2年間で生産能力を30%増強することも発表しました。
ASMLはこの株式付与で、二つの目標を同時に達成しようとしています。
報酬:AIブームによる業績拡大の恩恵を従業員と分かち合うことです。20,000ユーロという金額は、記録的な売上と急増する需要の中で従業員の貢献に tangible(具体的)な評価を与えるものです。
引き止め:3年間の権利確定期間は、ASMLが生産能力を大幅に拡大する重要な期間に、熟練したエンジニアや技術者を引き止めるための仕組みです。半導体業界全体で人材獲得競争が激化する中、この措置の重要性は非常に高いとされています。TSMC、サムスン、SKハイニックスなど、他の半導体大手も同様の長期報酬制度を導入しており、今回のASMLの動きはその流れに沿ったものと報じられています。
この株式付与の背景には、並行して進められているリストラ計画があります。2026年1月、ASMLは全世界で約1700人(従業員の約4%)の人員削減を発表しました。削減対象は主にオランダと米国の管理職やIT部門です。CEOのクリストフ・フーケ氏は、組織のスリム化と官僚主義の排除を目的としており、会社が複雑になりすぎたとのフィードバックがあったと説明しています。この削減計画に対し、2026年3月には本社があるフェルドホーフェンで1000人以上の従業員が抗議デモを行い、職場を離れる事態となりました。
今回の株式付与は、こうした混乱の中で残る従業員の不安を和らげ、主要な人材を引き止めるための一手と広く受け止められています。管理職を削減する一方で、最も複雑な機械を設計・製造するエンジニアの確保は不可欠だからです。
初期の報道にはいくつかの不正確な情報が含まれていました。以下に訂正します。
ASMLは、一見矛盾する二つのシグナルを同時に発信しています。官僚主義を排して機動性を高めるために管理職を削減する一方で、AI主導の生産能力拡大を実行するために必要な熟練労働者を引き止めるため、大規模かつ長期にわたる株式報酬を発行するのです。この報酬制度は、従業員のインセンティブを同社の上昇軌道にある収益見通しと大規模な設備投資計画に結びつけ、主要な人材を今10年の終わりまで確実に確保するものです。投資家にとっても従業員にとっても、メッセージは明確です。ASMLは、2030年まで人材を引き止める価値があるほど、AIブームが長期間持続すると見込んでいるのです。そのために、約900億ユーロを惜しまない姿勢を示しています。