しかし、この数字はOECDの長期予測である年間1550億~1920億米ドル(法人税収の6.5~8.1%増)を大きく下回っています。OECDは2024年1月の経済影響評価で、このルールにより低課税利益が約80%削減されると試算していました
。
初年度実績と長期予測の乖離には、以下の複数の要因があります。
1. 段階的かつ部分的な導入:Pillar Twoに合意したすべての国・地域が2024年1月1日までに法制化を完了したわけではありません。2024年初頭時点で、具体的な導入措置を取ったのは約45~55の国・地域に留まりました。
2. 経過措置(セーフハーバー)と実質活動控除:OECDフレームワークには2024~2026年の間、経過的なセーフハーバー(安全港)ルールが設定されており、多くの多国籍企業が追加課税を一時的に回避できました。また、実質的な経済活動(有形資産や給与など)に基づく所得控除(Substance-Based Income Exclusion)も適用され、課税ベースが縮小しました。
3. 主要国の不参加:米国の立場:世界最大の多国籍企業集積地である米国はPillar Twoを採用していません。トランプ前大統領は第2期初日の大統領令で、 OECD合意は米国に対して「効力を持たない」と宣言しました。2026年初頭には、米国財務省がOECD/G20インクルーシブ・フレームワークとの間で「サイド・バイ・サイド」セーフハーバーに合意。これにより、米国の税制はPillar Twoに適合しているとみなされ、米国本社の多国籍企業グループは外国による追加課税を免れることになりました
。米国はOECDのCentral Recordにおいて、このセーフハーバーの対象となる適格な制度を持つ唯一の国となっています
。
悪影響は確認されず:OECDは、Pillar Twoの導入により、採用国において雇用や企業投資の実質的な減少が生じたという証拠はほとんど見られなかったと報告しています。批判者が警告した「底辺への競争」の激化や経済活動の停滞は確認されていません。
利益移転の減少:OECDは、グローバル最低法人税によって国際的な利益移転が約半減すると推計しています。投資ハブとその他の国・地域との間の税率格差が縮小し、利益移転のインセンティブが低下したためです。OECDの2024年1月のワーキングペーパーでは、低課税利益が2017~2020年の平均約2兆1430億米ドルから約6530億米ドルへと約80%削減されると試算されています
。
広範だが不均一な普及:140以上の国・地域がPillar Twoに原則合意しています。EU加盟国は2024年1月1日から施行し、日本、オーストラリア、韓国、英国、カナダなど主要経済国も2024年中に法制化を進めました
。
2024年初頭時点で、約45~55の国・地域がPillar Twoを導入または導入の最終段階にありました。PwCの集計では、2024年初頭時点で欧州21カ国とその他4カ国がPillar Twoの全部または一部を施行する「最終法」を成立させていました
。
日本はPillar Twoの早期導入国の一つです。2023年度税制改正で関連法を整備し、2024年4月1日以降開始事業年度からグローバル最低法人税(GloBEルール)を適用しています。日本の導入は、自国企業が海外で追徴課税されるリスクを回避し、税収の国外流出を防ぐ目的があります。
独立系の長期税収ポテンシャル推計には幅があります。一部の学術モデルは年間680億~1050億米ドルと予測する一方、OECD自身の推計は最大2200億米ドルに及びます。EU税務観測所は、EU加盟国だけで15%の最低上乗せ税から年間550億~670億ユーロの税収が見込めると試算しています
。
初年度と長期予測のギャップは、より多くの国・地域が国内最低上乗せ税(QDMTT)を導入し、経過的なセーフハーバーが2026年以降に期限切れとなることで縮小する可能性があります。OECDは、暫定セーフハーバーが失効した後、グローバル最低法人税の影響はより大きくなると指摘しています。