[ブリュッセル発] 米国半導体大手ブロードコム(Broadcom)によるVMware買収後のライセンス・パートナー戦略を巡り、欧州連合(EU)の競争当局に対する圧力が急激に高まっている。欧州のクラウド事業者団体であるCISPE(Cloud Infrastructure Services Providers in Europe)が主導する5つの業界団体は2026年7月14日、EUの独占禁止規制当局に対し、ブロードコムに対する「暫定措置」(interim measures)の発動を正式に求める共同書簡を送付した 。
この事態は、単なる企業間の契約変更を超え、欧州全体のクラウド産業の構造と「デジタル主権」を揺るがす重大な火種となっている。
今回の共同書簡の差出人は、CISPEとその他の4つの業界団体だ。CISPEは欧州全域で約50のクラウドプロバイダーを会員に持ち、その中にはマイクロソフトやアマゾン(AWS)も準会員として名を連ねている 。
彼らの要求は明確で、ブロードコムに対してEU競争法に基づく正式な調査が進行中である間、その調査結果を待たずに即時の暫定措置を発動し、ブロードコムの行為を差し止めるよう欧州委員会に求めるというものだ 。
争点の核心は、ブロードコムが2023年11月に約650億~690億ドル(約10兆円)で買収したVMwareのパートナーエコシステムに、ブロードコムが加えた根本的な変更にある 。
主な時系列は以下の通り。
ブロードコムは従来の「使った分だけ払う」という従量課金制を廃止。代わりに、実際の利用状況とは無関係に、あらかじめ決められた価格での3年間の年額サブスクリプション契約を強制した。CISPEはこの変更について「クラウドコンピューティングの基本原則を破壊するものだ」と強く非難している 。
英テクノロジーニュースサイト『The Register』は、ブロードコムがVCSPに対して「鉄槌を下した」と報じ、招待制で認定プロバイダー数を大幅に絞り込むモデルに移行したと伝えている 。その結果、2026年1月時点で、米国内のVCSPはわずか19社にまで減少したとされる
。
CISPEは2026年3月19日、欧州委員会競争総局(DG Competition)に対し、正式な競争法違反の申し立てを行った 。これは、CISPEが2024年にマイクロソフトのクラウドライセンス慣行を巡って行った提訴に続く、米国大手ベンダーに対する2度目の大規模な異議申し立てとなった
。
この申し立ての中でCISPEは、欧州委員会に対して以下の3つを強く要求している 。
CISPEはブロードコムの行為を「欧州の主権的クラウドをブルドーザーでなぎ倒す行為」と表現し、「支配的地位の濫用」だと断じた 。また、この変更は欧州の中小クラウド事業者にとって「死刑宣告」に等しいと警告している
。
この競争法違反の申し立てと並行して、CISPEは別の法廷でも闘っている。2025年7月23日、CISPEはEU一般裁判所に対し、欧州委員会が2023年7月12日に下したブロードコムによるVMware買収の条件付き承認決定の無効を求める訴訟(事件番号:Case T-503/25)を提起した 。
CISPEの主張は、「欧州委員会は買収承認の審査過程で、ブロードコムが後に独占的なライセンス条件を課すという、明らかで深刻な競争上のリスクを適切に評価しなかった」というものだ。そして、この懸念が今、現実のものとなったと主張している 。この訴訟は、EUの裁判情報データベース「InfoCuria」で係属中とされている
。
この一連の対立は、単なる一企業の契約変更問題ではない。欧州が米国のテクノロジー大手への依存から脱却し、自律的なデジタル基盤を構築するためのより大きな流れの一部である。特に、ドイツやフランスなどでは「ガイアX」プロジェクトのように、域内でのデータ sovereignty(主権)を重視する動きが強まっている。
CISPEはこの問題を一貫して「デジタル主権」の観点から捉え、ブロードコムの行為は欧州のクラウドエコシステムを破壊し、コストを引き上げ、顧客の選択肢を奪うものだと主張している 。
これに対し、ブロードコムはCISPEの主張を「強く否定」している。米IT専門誌『CRN』に対して、ブロードコムはCISPEの主張は「市場の現実を誤解している」と反論。VCSPプログラムの変更は正当な事業再編であり、パートナーには代替手段があると主張している 。
さらに、進行中のEUの調査に対して、ブロードコムは手続き上の対抗措置も取っている。具体的には、米国法における弁護士と依頼者間の秘匿特権(Legal Professional Privilege)を根拠に、一部の文書提出を拒否しようとしたり、EU委員会の情報提供要求の停止を裁判所に求めたりしている 。
欧州委員会は現在、ブロードコムのプログラム変更を一時的に差し止める「暫定措置」を発動するかどうかの判断を迫られている。暫定措置は異例の緊急対応であり、その発動の有無は、欧州における巨大テクノロジー企業のライセンス戦略に大きなプレッシャーを与える前例となる。
同時に、EU一般裁判所における買収承認の無効訴訟の行方も注目される。この2つの法的手続きの結果は、欧州のクラウド市場の競争環境、そして「デジタル主権」の未来を大きく左右する可能性がある。
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2026年7月14日、CISPEと他の4つのクラウド業界団体がEU競争当局に共同書簡を送付し、ブロードコムに対する「暫定措置」の発動を正式に要請した。
2026年7月14日、CISPEと他の4つのクラウド業界団体がEU競争当局に共同書簡を送付し、ブロードコムに対する「暫定措置」の発動を正式に要請した。 ブロードコムは2025年10月にVMware Cloud Service Provider(VCSP)プログラムの廃止を通告。2026年1月に欧州での終了が発効し、パートナー企業は従来の従量課金モデルから強制的に3年契約に移行させられた。
CISPEは2026年3月19日、EU競争総局に正式な競争法違反の申し立てを行い、VCSPプログラムの停止と3年間の移行期間を要求している。