この手法の理論的基礎は、同グループが2024年に学術誌『Physical Review Research』に発表した、キラル導波路量子電磁力学における駆動散逸型遠隔エンタングルメントの損失耐性に関する研究で示されている 。
Johannes Fink率いるISTAチームは、異なるアプローチを取る。彼らは、ジョセフソンパラメトリックコンバータによって生成された2モードスクイーズド(エンタングルした)マイクロ波光子リザバーを用いる。これは、伝搬するマイクロ波場の連続変数(ガウス型)エンタングル状態を生成する 。2つの空間的に分離された超伝導トランスモン量子ビットがこの共通のスクイーズドリザバーに結合され、量子ビットは自律的に定常的な離散変数エンタングル状態へと緩和する 。
この成果は2026年7月13日付で学術誌『Physical Review X』に掲載され、タイトルは 「非局所スクイーズドリザバーを通じた定常量子ビットエンタングルメントの分配」 である 。
主な違い: UIUCは導波路における方向性(キラル)散逸に依存するのに対し、ISTAは非局所的なスクイーズドリザバー——本質的にエンタングルした相関光子対の源——を使用し、浴自体から量子ビットへエンタングルメントを転送する。
ISTAの実験は、20年以上前に提唱された理論を確認した。すなわち、2つの量子ビットが相関した(スクイーズド)光の共通源に結合されると、能動的な制御や測定なしに、リザバーとの相互作用のみで定常エンタングル状態に駆動されるという理論である 。理論家らは理想条件下でこの理論を提案していたが、ISTAチームが初めて実験的に実現した 。
ISTAチームは、彼らの手法が現在浴が持つエンタングルメントの約10% を量子ビットに転送できると報告している 。研究者らはこれは概念実証プロトタイプであると強調しており、能動的制御を用いる他の手法の方が現時点では効率的だが、自律的であるという本スキームの性質はスケーラビリティの点で概念的な利点を提供する 。
両グループの成果は、量子コンピューティングの応用に向けた実用的な道筋を示している。
モジュール型量子コンピューティング: 両手法とも、物理的に分離された量子モジュール間でエンタングルメントを分配する方法を提供する。これには、精密なタイミング制御パルスや繰り返し測定のオーバーヘッドが不要となる。これは、単一チップを超えて量子プロセッサをスケールアップするための重要な要件である 。
複数遠隔量子ビットの同期: ISTAチームは、この手法が「比較的単純で、複数の遠隔量子ビットを同期させるためにスケールアップできる」と明記している 。エンタングルしたリザバーが常に利用可能であるため、確率的な一致が発生する時だけでなく、オンデマンドで量子ビットをエンタングルさせることができる 。
フォールトトレランス: エンタングルメントが連続的に安定化されるため、エンタングル状態は量子ビットの自然なコヒーレンス時間を超えて持続し、さらなる量子処理や誤り訂正のためのリソースとして常に利用可能となる 。
量子ネットワークのプラットフォーム: 両手法とも超伝導量子ビットとマイクロ波光子で実装可能であり、既存の量子コンピューティングハードウェアと互換性がある。将来的には、光ファイバーを介してこれらのモジュールを接続するための光光子インターフェースも考えられる 。
即時の効率は控えめ(ISTA実験では浴のエンタングルメントの約10%を転送)であるものの、自律的かつ定常的であるという本スキームの性質は概念的なブレークスルーを表している。効率が改善されれば、これらの手法は、精密なタイミングを必要としない分散量子コンピューティングおよび量子ネットワークの基盤となる可能性がある。