だが、この強い言葉とは裏腹に、サウジアラビアの防空体制は深刻な戦略的脆弱性を抱えている。長期にわたる戦闘で、同国の防空の要であるパトリオットPAC-3 MSE迎撃ミサイルの在庫が極限状態にあるのだ。2026年1月に米国が承認した90億ドル(約1兆3500億円)規模の追加売却契約も、早くとも2027年半ばまでは1発も届かない。この空白期間に、世界最重要の石油インフラが最大の緊張に晒されている。
本分析では、7月4日の誓約を引き出した経緯、サウジ防空の現状、そして迎撃ミサイルの枯渇とフーシ派の脅威が交差する地点で、世界のエネルギー市場が直面するリスクを探る。
2026年7月3日から4日にかけて、フーシ派はサウジアラビアに対し明確な軍事最後通告を突き付けた。イエメン領空の侵犯や「攻撃的行為」があれば、次はサウジの空港や石油ハブを攻撃するという内容だ。これは、フーシ派の軍事的姿勢がエスカレートし、連合軍が「イエメン民間人を危険に晒している」と非難した時期と重なる。
これに対し、連合軍報道官アル=マリキ将軍は7月4日、「サウジ王国を標的としたり、イエメンの主権を侵害しようとするいかなる試みに対しても、前例のない決意と力で応じる」と述べた。アル=マリキ将軍は、フーシ派が自らのイエメン人民に対する「違反行為」から「注意をそらそうとしている」と非難した。なお、フーシ派は同日、サヌア空港付近でサウジ軍機を標的にしたとも主張しており、直接的な軍事衝突はさらに激化している。
公的な「武力行使」の誓約とは対照的に、サウジの防空システムは極度の疲弊状態にある。サウジは紛争開始時に約 2,800発のPAC-3 MSE迎撃ミサイル を保有していたとされる。複数の分析によれば、2026年5月末から6月初旬の時点で、残存数はわずか 80~150発——戦前の在庫の3~5パーセントに過ぎない——と推定されている。これは、イランやフーシ派の航空脅威との38日間の激しい戦闘で、約2,400発もの迎撃ミサイルが消費された結果である。
80~150発という下振れの数字は複数の評価でおおむね一致しているが、サウジ政府や米国防総省が公式に確認した数字ではない。2026年4月の時点での残存推定値は約400発だったが、その後の戦闘でさらに減少したと見られる。
2026年1月30日、米国務省はサウジアラビアへの PAC-3 MSE迎撃ミサイル730発 と関連機器の輸出(推定価格 90億ドル)を承認した。主契約企業はロッキード・マーティンである。
しかし、この承認にもかかわらず、実際の納入には正式契約から少なくとも18か月を要する。つまり、最も早くても 2027年半ば が限界だ。2026年4月9日に交わされた47億6千万ドルの陸軍生産契約の94%は外国軍事有償援助(FMS)案件で賄われているが、ロッキード・マーティンのアーカンソー州カムデン工場は米海軍や同盟国の注文で飽和状態にあり、サウジ向けの生産枠を捻出できない構造的な問題がある。
さらに深刻なのは、サウジアラビアが米国と地位協定(SOFA)を結んでいない点だ。他の湾岸協力会議(GCC)諸国が緊急補給を受けられたのに対し、サウジはその道を塞がれたため、自国の在庫を急速に消耗することになった。
フーシ派の最後通告は、過去に攻撃で脆弱性が実証されたインフラを直接標的にしている。
PAC-3在庫の枯渇が、まさにここでクリティカルな脆弱性となる。残り80~150発の迎撃ミサイルでは、高価値目標を防衛するパトリオット・バッテリーは、持続的な戦闘で急速に弾切れを起こす。複数のベクトルからの飽和攻撃を受ければ、残存する防御網は容易に突破されうる。
リスクは施設そのものにとどまらない。
世界の石油在庫が逼迫し、余剰生産能力が湾岸地域に集中している現状では、サウジで大規模な供給途絶が起これば、ブレント原油は1バレル=100ドルを優に超え、紅海の海上保険料の高騰も加わり、さらなる価格上昇圧力となるだろう。