シスコがこのプロジェクトで採った姿勢は、業界の常識とは一線を画す。同社はあえて、最も高性能なフロンティアAIモデルを採用していない。代わりに、システムは「タスクごとに最もコスト効率の高いモデルを使う」という単純明快な原則に基づいて構築されている。9万ものエージェントが同時稼働する環境では、コスト管理は性能と同等に重要になる。パターソンCFOはフォーチュン誌にこう語っている。「安いモデルで十分に事足りるのに、最も高額なモデルに大金を費やすつもりはない」
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AIエージェントは、外部のパブリッククラウドではなく、シスコ自身のネットワーク・クラウド基盤上で動作する。これは意図的な戦略的判断だ。自社が販売するスイッチ、ルーター、セキュリティツールと同一のハードウェア上でこの大規模展開を行うことで、製品を巨大なスケールで検証できる。同時に、自社のインフラが要求の厳しい「エージェンティック(自律型エージェント)ワークロード」を処理可能であることを、顧客に実証する狙いがある
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社員がタスクを依頼すると、システムは単一のモデルに処理を任せない。そのタスクに対して最もコスト効果の高いAIモデルにリクエストを自動ルーティングする。各エージェントは個々の社員の役割に合わせてパーソナライズされており、以下のような多様な機能を処理できる。
現時点で公開されているPeople Matters、Times of India(フォーチュン誌引用)などの報道には、このAIエージェント導入に伴う体系的な社員のスキルアップや知識共有プログラムについての具体的な記述は見つかっていない。ただし、シスコは2026年5月に行ったリストラの一環として、影響を受ける社員に対し、AI、セキュリティ、ネットワーキングなどをカバーする全Cisco Uコースと認定資格への1年間のアクセスを提供することを別途発表している
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今回の社内向けAIエージェント展開は、単なる実験ではない。これはシスコの商業的な大攻勢と時を同じくしている。2026年6月2日の「Cisco Live AMER 2026」で、同社は企業が自社のAIエージェントを構築・保護・管理するための統合スイート「Cisco Cloud Control」を発表した。これには、50以上のサードパーティ製コネクタとOpenAI Codexとの統合を備えた「Agent Builder」が含まれている。つまり、社内への展開は、シスコが自ら「最初のエンタープライズスケールのテスト顧客」となることで、製品の完成度を高める役割を果たしている。
シスコのAIインフラ受注は急増している。2026年度第3四半期までの累計受注額は53億ドルに達し、第3四半期だけでも21億ドルを計上した。同社は2026年度通期のAI売上高予測を従来目標から上方修正し、90億ドルとした
。CEOのチャック・ロビンズ氏は、決算説明会で現在のAIサイクルを「ドットコム時代よりも大きな」生成的な機会と表現し、AIクラスターの構築、キャンパスネットワークのリフレッシュ、エージェンティックワークロードという複数の需要要因が同時に発生していると指摘している
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| 指標 | 結果 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 158億ドル(記録) | +12% |
| GAAPベース純利益 | 34億ドル | +35% |
| GAAPベースEPS | 0.85ドル | +37% |
| Non-GAAPベースEPS | 1.06ドル | +10% |
| プロダクト売上高 | 121億ドル | +17% |
| 総プロダクト受注 | — | +35% |
| 残存履行義務(RPO) | 435億ドル | +4% |
同じ日、シスコは約4,000人(全従業員の約4.4%)を削減するリストラ計画も発表した。パターソンCFOは、レガシーハードウェアからAIインフラ、ソフトウェア、エージェントプラットフォームへの事業転換に伴う「製品ラインナップの抜本的な見直し」について説明している
。シスコの株価は、好決算、AI見通しの上方修正、そしてこのリストラ計画に対する投資家の信任を背景に、15~20%急騰した
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シスコの社内AIエージェント展開は、同社の商業的なAI戦略にとって究極の「概念実証(Proof of Concept)」である。9万のエージェントを自社インフラ上で、コスト効率の高いモデルルーティングを用いて稼働させることで、同社は自社のネットワーキング、セキュリティ、クラウド制御製品が「エージェンティック・エンタープライズ」を巨大な規模で支えられることを示している。これは、AIファーストの未来に向けて(人員構成も含めた)全面的な変革を進める、シスコの決意の表れと言えるだろう。