米国の戦争研究研究所(ISW)は、イランがこのメカニズムを利用して、ホルムズ海峡に対する長期的な権限を獲得しようとしていると分析。これにより、イランは自らの裁量で海峡の通航を規制し、制限することが可能になり、米国政府関係者や国際海運会社にとって大きな懸念材料となっています 。
同委員会の協議の法的基盤は、「イスラマバード覚書(MoU)」 です。これは14項目からなる枠組み合意で、2026年6月17日に電子署名、6月19日にスイスで正式に署名されました 。このMoUは、ホルムズ海峡の再開と、最終的な包括合意を60日以内に交渉することを明確に規定しています
。また、武力行使の禁止を復活させ、最終合意を支持する拘束力のある国連安全保障理事会決議を求める内容も含まれていました
。
重要なのは、このMoUが海峡の長期的な管理体制について具体的に規定しなかったという点です。この空白を埋めるべく、イランとオマーンは二国間で先手を打ち、60日間の交渉期限が切れる前に、海峡の将来的な地位を事実上「先取り交渉」しようとしているのです 。マスカットでの会合では、両国ともこのMoUの第5条が協議の枠組みとして参照されました
。
この委員会の開催は、無風状態で実現したわけではありません。ホルムズ海峡は、2026年2月28日に米国とイスラエルがイランに対して空爆を開始した後、事実上封鎖されました。イラン革命防衛隊(IRGC)は通行禁止を通告し、主要な石油・ガス会社やタンカー運航会社は輸送を停止しました 。その結果、世界経済は深刻な打撃を受けました。約2,000隻の船舶に乗っていた数千人の船員が座礁し、保険会社は保険引受を拒否。世界の石油供給の約20%を扱うこの要所での船舶追跡データは、交通がほぼ完全に停止したことを示していました
。
MoUが署名された後も軍事衝突は続きました。6月25日には、国連の船舶退避計画が、オマーン沖で船舶が飛来物による攻撃を受けたことを受けて一時中断されました 。そして、この委員会のわずか2日前の6月27日には、イランが米軍の海峡近くでの攻撃への報復として、中東にある米軍施設を攻撃したと発表。和平の枠組み自体が脅かされる事態となっています
。
イランの構想:イラン・オマーンによる共同規制
テヘランは、恒久的なイラン・オマーン機構の設立を目指しており、それにより自国に同等の権限を与え、通航の規制と課金を可能にしようとしています。イラン政府高官は、海峡は「戦前の状態には戻らない」と明言し、60日間の期間終了後は船舶に通行料を課す意向を示しています 。6月23日の協議に関する共同声明では、特に「船舶管理、関連サービス、および関連料金」に関する議論が行われたことが明記されています
。
米国の構想:国際法の下での航行の自由
米国の立場は、MoUにも反映されている通り、海峡を現行の国連海洋法条約(UNCLOS)の枠組みの下で再開することです。これにより、イランによる一方的な通行料や制限なしに、無害通航権と航行の自由が保証されるべきだとしています 。
戦略的含意: オマーン——海峡沿いに領海を持ちながらも中立的な立場を取る国——をガバナンス構造に組み込むことで、イランは二国間での「既成事実」を作り出そうとしています。これにより、米国や国際海運業界が覆すことが困難な体制を構築し、事実上、米国を海峡の将来の規制モデルから締め出そうとする戦略です 。
MoUに基づき、イランは海峡の「段階的再開」に合意し、米国はイラン産原油に対する海上封鎖の解除を約束しました 。しかし、国連による座礁船舶の退避計画は、6月25日の攻撃を受けて中断されており、安全な通航がまだ確保されていないことを示しています
。
時間は限られています。2026年8月中旬までに、米国とイランは包括的な和平合意を最終決定するか、枠組み自体が崩壊するリスクを負うことになります。もし合意に至らなければ、イランは一方的に通行料や制限を課すと示唆しており、米国は新たな軍事行動の可能性を警告しています 。6月29日時点でも、海運交通は厳しく制限されたままです。ごく一部の船舶の移動は確認されているものの、通常の商業交通は再開されておらず、安全保障環境は依然として非常に不安定です
。