これら二つの要因が絡み合うことで、**「新たなソブリン・金融安定性の連関」**が生まれた。これは、ある政府の債務経路に対する信認が失われると、その影響が国債市場の急激な価格変動(repricing)や機能不全として急速に広がるメカニズムを指す。BIS暫定トップのフランク・スメッツ氏は、このような国債の再評価が金融環境を急激に引き締め、中央銀行の金融政策運営を複雑にし、ひいては市場や財政規律を損なうような介入を中央銀行に強いかねないと警告している
。
2022年9月、当時のトラス政権が大規模な減税を柱とする「ミニバジェット」を発表した直後、英国の長期国債利回りはわずか4日間で100ベーシスポイント以上も急騰した。この急激な金利上昇は、確定給付型年金基金が採用していたLDI(リスク駆動型投資)戦略と呼ばれる高レバレッジのデリバティブ戦略に壊滅的な打撃を与えた。年金基金は証拠金や担保の追い掛け(マージンコール)に応じるため、保有するギルトを強制的に大量売却せざるを得ず、それがさらなる金利上昇を招くという自己増殖的な悪循環に陥った
。結局、イングランド銀行が緊急の国債購入プログラムを発表し、市場を沈静化させた
。
BIS報告書が問題視するのは、この時LDIファンドが果たした役割を、現在はより広範な先進国の国債市場で、より規制の少ないヘッジファンドが担っている点だ。2022年の危機は、「レバレッジ」、「流動性の不一致」、「集中したポジション」という3要素が、一つの財政ショックをシステム全体の危機に増幅させることを如実に示している。
さらにBISは、債券と株式の伝統的な逆相関関係が崩れつつある点も警戒している。IMFの世界金融安定報告書(2026年4月)によれば、地政学リスクなどに伴う供給ショックの頻発が、景気後退時に株式が下落すると債券が買われて値上がりする(つまりポートフォリオをヘッジする)という従来の関係を侵食している。
このことは、市場にストレスがかかった際、債券がもはや有効なヘッジ手段として機能しない可能性を示唆する。もし株式と債券が同時に下落すれば、レバレッジを抱えた投資家は両市場で同時に損失を被り、連鎖的なデレバレッジ(借入返済のための資産売却)を引き起こし、システム全体のリスクを飛躍的に高める恐れがある。
BISの警告は、世界経済が「低成長、高債務、非伝統的な金融主体の拡大」という新たなフェーズに入ったことを示唆している。各国の政策当局者は、この新たな「連関」が生み出すリスクを真摯に受け止め、早急かつ協調的な対応が求められている。