注目すべきはStrategy社の損失だけではない。その背景には、リスク資産全体の後退という大きな流れがある。以下、連動した5つの要因を見ていく。
2026年6月5日、ビットコインは59,099ドルまで下落し、2024年10月以来の安値を記録した後、61,000ドル台まで小幅に回復した。6月下旬には再び60,000ドルを下回り、59,029ドルまで落ち込んだ
。この週の下落率は16%に達し、その引き金の一つがStrategy社の初めてのトークン売却だったと指摘されている
。
イーサリアム(ETH)の下落はビットコインよりさらに激しい。2025年第1四半期だけで約38%下落し、2018年以来の弱い出足となった。2026年半ばには、2025年4月以来の安値を記録し、リスク資産全体が後退する中でビットコインを大きく下回るパフォーマンスとなった
。
米国のスポットビットコインETFは、2026年5月15日から6月3日までの13営業日連続で純資金流出を記録した。これは2024年1月の商品ローンチ以来、最長の流出期間である。この間の総流出額は43.3億ドルに達した。特に6月第一週だけで34億ドルの純流出があり、ローンチ以来最大の週間流出額となった
。この背景には、マクロ経済指標を前に機関投資家がエクスポージャーを減らしたこと、そしてStrategy社の売却ショックがあると分析されている
。
2025年から2026年にかけて、予想以上の根強さを示すPCEインフレ指標が、FRB(米連邦準備制度理事会)による明確な利下げ経路へのコミットメントを妨げた。PCEデータが予想を上回るたびに、投資家はリスク資産から資金を引き揚げ、仮想通貨ETFからは即座に資金流出が発生した。2025年末には利下げ確率が数日のうちに30%から80%まで乱高下する事態も発生
し、不確実性が継続した。FRBが25ベーシスポイント(0.25%)の利下げを実施した後も、パウエル議長が追加緩和に慎重な姿勢を示したことで不透明感は解消されなかった
。この感応度の高さは極めて顕著で、ある時の中核PCE指標の上昇は、1日でビットコインETP(上場投資商品)から7,400万ドルの流出を引き起こした
。
2026年5月下旬、Strategy社は優先株の配当支払いのために32BTC(1コインあたり約77,135ドル、総額約250万ドル)を売却した。これは2022年以来の同社初の売却である。この行動は、セイラー氏が長年築いてきた「絶対に売らない」という基本理念を覆すものだった。同氏は後にBTC Prague会議で、「会社がビットコインを売却しないとは言っていない。私のアドバイスは個人向けであり、企業戦略ではない」と釈明した
。しかし、この売却は投資家の信頼を揺るがし、ビットコインが60,000ドルを割り込む一因となったとみられている
。ブルームバーグのアナリストらは、セイラー氏が「資本構造の改善につながるなら売却も検討する」と発言した数週間前から、その方針転換を予見していた
。
市場の見方は割れている。
弱気派の見方: Strategy社が配当や債務返済のために、さらなる清算(売却)を強いられる事態になれば、売り圧力の連鎖が加速し、ビットコインの下落と追加の含み損を生む負のスパイラルに陥る可能性があると警告する。13営業日連続のETF流出、粘り強いインフレ、遅延するFRBの利下げ——これら全てが更なる下落リスクを支持する材料だ
。
慎重派/混合の見方: 売却されたのは保有総額84万3,000 BTCのうちの32BTCに過ぎず、セイラー氏は方針転換ではないと強調している点を指摘する。巨額の含み損はあくまで帳簿上のものであり、実際の売却が大規模に拡大しない限り現金化される損失ではない。ビットコインが59,029ドルを付けた後、61,000ドル台まで回復した事実は、この水準では買い手が存在することを示している。
長期保有派の見方: セイラー氏とその支持者らは、ビットコイン準備金戦略は依然として有効であり、同社はこうしたボラティリティに耐えうる設計であると主張する。過去のサイクルを見れば、これほど大きな下落からも常に回復してきたというのが彼らの主張だ。今回の売却は戦略的な転換ではなく、あくまで流動性を確保するための戦術的な動きであると見なしている。
Strategy社の130億ドルの含み損は、会計上の仕訳に過ぎない。しかし、それを生み出した力—創業以来初の売却、ETFからの最長の資金流出、資本を傍観させるマクロ経済圧力—は極めて現実的だ。これが底値なのか、それとも長期低迷の新たな一章に過ぎないのかは、どのアナリストの意見を聞くかによって異なる。しかし、市場からのメッセージは明確だ。上場企業による無条件のビットコイン蓄積の時代は、より不安定で予断を許さない新たな局面に突入したのである。