③ 追証(マージンコール)の連鎖と流動性危機
株価が下落すると、レバレッジをかけたトレーダーは追証(マージンコール)に直面し、最も早く売却できる含み益のある資産——多くの場合、金や銀、ビットコイン——を売却せざるを得なくなりました。これが全資産クラスにわたる負のスパイラルを生み出しました。さらに、時価総額1.75兆ドルとされるスペースX(SpaceX)などの大型テクノロジー企業の新規株式公開(IPO)が、既存の市場から巨額の資金を吸い上げていたことも、流動性を一層逼迫させました
。
④ 「何でも売り(セル・エブリシング)」のリスクオフマインド
6月初旬までに、投資家は総合的なリスク回避姿勢に転換しました。株式、暗号資産、貴金属がほぼ同じ値動きで下落する「ロックステップ(足並みを揃えた)」現象が発生し、これは特定の資産クラスの悪材料というよりも、流動性主導のディスロケーション(混乱)に典型的なパターンでした。6月9日には、仮想通貨の恐怖と欲望指数(Fear and Greed Index)が10まで低下し、「極度の恐怖」状態を示しました
。
⑤ 地政学リスクプレミアムの剥落
6月25日、米国とイランが紛争終結の枠組みに合意し、60日間の停戦が発表されました。これにより、安全資産と見なされていた金、銀、原油に織り込まれていた地政学リスクプレミアムが一気に剥落しました。市場解説では、「地政学プレミアムの剥落」と表現されています
。
株式
売りは2つの波で襲いました。6月5日、S&P500は3.00%下落の7,357、ナスダック100は5.37%急落の28,774で取引を終えました。6月9日には、総額で約1.88兆ドル(約280兆円)もの価値がわずか1時間で消失する広範な売りが発生し、S&P500は1.62%下落(約1.10兆ドル消失)、ナスダックは2.50%下落(約8,800億ドル消失)しました
。6月22日から24日にかけてはハイテク株の下落が続き、ナスダックは一時1年以上ぶりの低水準を記録、年初来では最も悪いパフォーマンスとなりました
。6月の下落にもかかわらず、6月22日時点の年初来パフォーマンスは、ダウ平均が+7%、S&P500が+9%、ナスダックが+14%でした
。
金
金は各局面で急落しました。6月5日には3.28%下落し、1オンスあたり4,328ドルに。6月9日にはさらに1.3%下落
。6月24日には、スポット価格が1月以来初めて4,000ドルを割り込み、1月のピーク(約5,600ドル)から約30%下落しました
。6月25日には停戦合意を受けてさらに2.79%下落し、4,000ドルを下回りました
。
銀
銀は主要資産の中で最も大きな打撃を受けました。6月5日には8%超下落して67.80ドルに。6月24日には1日で8%下落し、1月のピーク(約122ドル)から55%も値を下げました
。6月25日にはさらに6.73%下落し、主要資産クラスの中で最大の下落率となりました
。
ビットコインと暗号資産
ビットコインは6月4日の約63,800ドルから6月5日には約60,362ドルへと5.3%超の下落。6月9日には全体の売りに連れ安し2.12%下落しました
。6月下旬にかけて複数年ぶりの安値からやや反発したものの、不確実性の高い時期に「デジタルゴールド」として機能するというビットコインのテーゼは崩壊し、多くの機関投資家がポジションを縮小または解消しました
。6月22日時点で、ビットコインは年初来で28%安、イーサリアム(Ether)は43%安でした
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FRBの政策方向性が最大の変数
FRBは現状維持(ホールド)ながら、タカ派方向に傾いています。市場は2026年中の利上げを織り込み始めており、J.P.モルガンは次の動きは2027年9月の0.25%利上げと見ています。U.S.バンクはFRBは2027年まで金利を据え置き、景気後退ではなく正常化を続けると予想しています
。エコノミストの間では、ナティクシスやシティグループのような利下げ予想から、バンク・オブ・アメリカやドイツ銀行の0.75%利上げ予想まで、見解が大きく分かれており、マクロ経済の見通しに対する不確実性の高さを示しています
。
インフレはなお目標の2%を上回る
底堅い経済活動、根強いインフレ、そして高い不確実性がFRBを慎重にさせています。ゴールドマン・サックスは、2026年1月にはFRBが利下げペースを減速し、経済成長率は2~2.5%に加速すると予想していました
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AI関連株への信認が試される
ハイテク企業の決算シーズンは重要な試金石です。AIの収益化が再度失望させるものであれば、さらなる下落は避けられません。逆に、良い意味で予想を上回れば、回復基調に転じる可能性もあります。ブロードコムの決算ミスが引き金となったように、巨額のAI投資が「底なし沼」になっていないかどうかが注視されています。
地政学リスクプレミアムは縮小
米イラン間の停戦枠組み合意は、一つのテールリスクを取り除きましたが、同時に金や原油の安全資産としての需要(セーフヘイブン需要)も減少させました。これが金の4,000ドル割れに拍車をかけました。
流動性環境は依然脆弱
信用取引の残高が高水準にあり、大型新規公開株(IPO)が市場から資金を吸い上げているため、新たなショックが発生すれば、再び連鎖的な下落が起きるリスクは残っています。異なる資産クラスが連動して下落するパターンは、ファンダメンタルズ要因よりも流動性主導のディスロケーションの特徴です
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エコノミストの見解は真っ二つ
利下げ予想から0.75%の利上げ予想まで見解が分かれていることは、マクロ経済の先行きに対する極端な不確実性を反映しています。J.P.モルガンは、2026年に米国と世界が景気後退(リセッション)に入る確率を35%と予想しています
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要約すると、2026年6月の市場暴落は、第一幕「AIバリュエーションへの懸念」、第二幕「マージンコールの連鎖」、第三幕「地政学リスクプレミアムの剥落」という複数の幕からなる、市場の浄化作用でした。今後の見通しは、FRBが実際に利上げに踏み切るかどうか、AI関連企業の収益が現在のバリュエーションを正当化できるかどうか、そして流動性環境が安定するか、あるいはさらに悪化するかにかかっています。
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