ところが同時に、SAMAは少なくとも2社の国際資産運用会社から数十億ドルの資金を引き揚げていることが、ブルームバーグの関係筋の情報で明らかになっている。引き揚げられた資金は、運用会社に委託するのではなく、より流動性が高く元本が保全されやすい資産に再投資されている
。
具体的には、2026年3月時点で準備総額の56.6%を占める外国証券投資は前年比9.2%増の1.05兆リヤルに拡大した一方、海外銀行預金は2026年1月に前年比36.3%増の4600億リヤルと急増している。つまり、SAMAは「パイの大きさ」を拡大しながら、その中身を流動性の高い資産にシフトしているのだ。
SAMAは、積極的な外部運用委託モデルから、流動性と元本保全を最優先する姿勢への転換を進めている。その戦略は、外部委託による長期運用よりも、直接保有する流動性の高い金融商品に準備の比重を移すことで、より大きなバッファーを構築することにある。
SAMAは利益追求型の外部投資よりも、資本の保全とリヤルのドルペッグ維持を優先している。また、国内銀行は積極的な融資により流動性が逼迫しており、SAMAは国内のバッファー確保のために資金を振り向けている
。この引き揚げは、長年にわたる外部ファンドへの受動的な委託から、「投資戦略において徐々に目利きになっている」ことを示している
。
重要なのは、これが「ドル離れ」ではないという点だ。 SAMAの米国債保有額は2026年1月に6%増の1348億ドルに増加しており、サウジアラビアは2026年1月初頭に115億ドルのドル建て債券を発行、約2.7倍の応募倍率を記録している。SAMAの総裁は2026年6月、「ドル離れは漸進的なプロセスであり、急激なシフトではない」と述べ、ドルが世界の外貨準備の57%を占めている現状を指摘している
。
この戦略転換は、財政悪化と地政学的な「マルチアラインメント」を背景に展開している。サウジアラビアの経常収支は2025年にGDP比-3.1%の赤字となり、2026年には-3.2%に拡大する見込みである。2026年度予算では約1650億リヤル(GDP比3.3%)の赤字が見込まれ、それを賄うための570億ドルの借入計画が承認されている
。アリアンツは「王国の対外ポジションは過去数年にわたり弱体化している」と指摘する
。
欧州議会はリヤドの戦略を「マルチアラインメント」と特徴づけ、長年の米国との安全保障パートナーシップを維持しつつ、中国、ロシア、そしてグローバル・サウスとの関係を拡大する動きを指摘している。地域紛争のリスクは継続しており、軍事費による準備金の取り崩しを指摘するアナリストもいるが、SAMAの総裁はバッファーは「十分」であると述べている
。
世界の市場環境もプレッシャーを強めている。2026年初頭、世界の株式資金フローは1月以来初めてマイナスに転じ、長期化する地政学的紛争の中で流動性が逼迫していることを示している。FRBが金利を据え置いていることも、マクロ経済の不確実性を高めている
。
SAMAの転換は、資産運用業界に複数の影響を及ぼす。世界最大級のソブリン準備金プールであるSAMAからの引き揚げは、影響を受ける運用会社(少なくとも2社、さらに見直しの対象となっている企業がある可能性が高い)にとって直接的な手数料収入の減少を意味する。
他の湾岸諸国や新興国の中央銀行がSAMAに追随する可能性もある。そうなれば、より短いロックアップ期間、高い流動性、柔軟な条件が求められるようになり、ソブリン・マンデットにおける運用会社のマージンは圧迫されるだろう。外部委託から純粋な流動性商品へのシフトは、地政学的な不確実性が続く中で、ソブリンがプライベートマーケットやオルタナティブ投資、長期固定収入商品におけるロックアップ期間を許容しなくなっていることを示している
。
SAMAとの関係が深い資産運用会社は、リレーションシップを維持するために、優れた流動性管理能力を証明することが求められる。しかし、SAMAによる米国債の直接保有増加は、米国債市場に流動性のバックストップを提供する一方で、アクティブ運用に回る資本を減少させるという皮肉な結果ももたらしている
。
SAMAの二正面作戦——準備バッファーを拡大しながら、その構成を流動性の高い商品に集中させる——は、サウジアラビアが双子の財政赤字、地政学的不確実性、そして「Vision 2030」の野心的な経済変革の資金需要に対処する中での、慎重かつ防御的な姿勢を反映している。グローバル資産運用会社へのメッセージは明確だ。今後、ソブリン・マンデットは利回りよりも流動性と柔軟性を重視するようになり、外部の運用会社への受動的な委任の時代は終わり、より目利きの利いた、自ら運用に関与する時代へと移行しつつある。