ここで最も重要な疑問が浮かび上がる。このガーネットは、本当に火星で形成されたのか。それとも——。
研究チームは、岩片内部の輝石のマンガン/鉄比を分析した。これは天体の出身地を識別する地球化学的な指紋の一つだ。結果は複雑だった。カリ長石に富む領域の輝石は、その組成比が既知の火星由来の輝石の範囲にきれいに収まっていた。しかし、ガーネット(アンドラダイト)に富む領域では組成のばらつきが大きく、「コンドライト隕石」と呼ばれる始原的な隕石に見られる交代作用の組成パターンとも重なる部分が認められたのである 。
これは二つのシナリオを提示する。一つは、この岩片が火星地殻の深部で生成された、これまで知られていなかったガーネット形成環境の記録であるという可能性。そしてもう一つは、火星そのものではなく、火星に衝突した天体(インパクター)の破片が、たまたま火星の表土に取り込まれて閉じ込められたものだという可能性だ。NWA 8171には元々、衝突天体由来と考えられる高いニッケルとクロムの痕跡が確認されており、後者のシナリオも十分にあり得る 。これを決定づけるには酸素同位体分析が必要だが、それには貴重なサンプルの一部を破壊せざるを得ない。発見の希少性ゆえに、科学者たちはまだそれを実行していない
。
いずれのシナリオが正解でも、その科学的意義は極めて大きい。
もしこのガーネットが火星自身の地殻活動で生成されたなら、初期の火星には現在の火山性玄武岩だけではない、多様な変成・熱水システムが存在したことになる。それは、40億年以上前の火星に、地球の大陸地殻を形作るようなプロセス、つまり深く熱く、流体に満ちた地質環境がポケット状に存在していたことを意味する 。
もしこれが衝突天体の残骸なのであれば、それは約45億年前の混沌とした「後期重爆撃期」に火星へ降り注いだ天体の正体を、クレーター調査では決して得られない高解像度で記録したタイムカプセルとなる。それは、かつての火星が様々な惑星物質を取り込む「天然の博物館」として機能していたことを補強する証拠だ 。
どちらに転んでも、NWA 8171の中のこの一粒の赤い結晶は、他のどんなサンプルでも到達できなかった、火星の45億年史の深淵へと続く扉を、確かにこじ開けたのである。
Comments
0 comments