この環境下で、インカムゲインを生まない金を保有する「機会費用」が低下し、買いが集まったのです。さらに、構造的な追い風も上昇を増幅させました。ドル指数は100近辺で推移し、年初来で約8%下落しており、外貨建てで取引される金の割安感を強めると同時に、米国の経済的リーダーシップへの懸念を映し出しています 。また、各国中央銀行による外貨準備の「脱ドル化・金シフト」も根強く、世界金評議会(WGC)の最新調査では、過去最高の45%の中央銀行が今後金保有を増やす意向を示しています
。
バークレイズは6月15日付のリポートで、2026年末と2027年末の金価格目標を、それぞれ4,791ドルと4,900ドルで据え置きました 。注目すべきは、直近の金価格が中東情勢の激化を背景に20~25%もの急落を見せたことに対して、同行がこれを「構造的な弱気転換ではなく、過熱感の調整」と断じた点です
。
バークレイズの分析によれば、金の理論的適正価格(フェアバリュー)は4,150ドルであり、調整を経て現在の価格はその水準に近づいたことで、中長期的な強気シナリオを信じる投資家にとって「技術的に優れた仕込み場」が到来したと指摘しています 。
同行が指摘する構造的な支援材料は以下の3点です。
ただし、短期の値動きについては注意を促しています。今後の焦点は、和平の枠組みが本当にドル安と米国債利回りの低下を持続的に導くかどうかです。また、ロシアやトルコの中央銀行が自国通貨防衛のために行ってきた金売却は重しでしたが、これも長続きはしないと見ています 。
シティはさらに強気です。同行は6月15日、0~3カ月の金価格目標を従来の4,000ドルから4,500ドルへ引き上げ、6~12カ月の強気見通しは5,000ドルで据え置きました 。同時に、銀の短期目標も60ドルから70ドルへ引き上げています
。
この判断の背後には、「ホルムズ海峡の緊張緩和が資源インフレと地政学的リスクプレミアムを和らげ、より広範なリスク選好を改善させる」という読みがあります 。シティのアナリストは、「和平への進展は重大な転機であり、貴金属価格全体の追い風になり得る」と評価しています
。
とはいえ、シティも「今後は大きな変動が避けられない」と警告。現在市場が織り込んでいるのは、あくまで「暫定覚書」であり、持続的な資源供給を保証する「恒久的な中長期合意」ではありません。すなわち、恒久和平が実現すれば、金にはさらなる上昇余地があることになります。シティは、ホルムズ海峡の流れが正常化する基本シナリオの確率を**60%**としています 。
両行が共通して警戒するのは、2つの短期的な火種です。
直近のFOMC(6月17~18日)。これは、新FRB議長に就任したケビン・ウォーシュ氏にとって最初の金融政策決定会合です 。仮に、利上げは見送るものの、市場が想定する以上に強硬な「タカ派」的な声明が出れば、直近の「早期利下げ期待」は一気に巻き戻され、金の重しとなります。
和平合意の不確実性。今回の覚書はあくまで「予備的」なものです。米イラン双方とも、恒久的な停戦はこれからの交渉次第だと明言しています 。もし協議が決裂したり、軍事衝突が再燃したりすれば、地政学的リスクプレミアムが予測不能な形で急騰する恐れがあります。バークレイズは、ドルと米国債利回りの持続的な低下は、この和平の枠組みが維持されるかどうかにかかっていると明確に指摘しています
。
インフレの粘着性。和平で原油由来のインフレ懸念は和らぐものの、家賃やサービス価格などからなる「コア・インフレ」が頑強であれば、FRBは「より高く、より長く」金利を維持せざるを得なくなり、金の上値を抑える要因となります 。
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