しかし、楽観的な進展の裏では、両国の国内強硬派による公開的な姿勢や反対に煽られ、合意の解釈を巡る大きな隔たりが依然として存在している 。この合意は包括的な和平とは程遠く、中核的ないくつかの争点を内包した、極めて脆弱な「器」に過ぎないのだ。
このMOUは、いわゆる「成果ベース」の枠組みとして設計されている。米国側の立場は、制裁緩和や金融資産の凍結解除といった「前払い」での譲歩ではなく、イランによる現場での検証可能な行動と直接結びつけるというものだ 。合意のうち、公に認められている主な構成要素は以下の通りである。
最も不安定な対立点は、制裁解除と凍結されたイラン資産の解放のタイミングだ。両者は根本的に相容れない前提で動いている。
イランの立場: カーゼム・ガリーバーバーディー外務次官らが主導するイランの交渉団は明確に主張している。それは、イランの凍結された海外資産の少なくとも50%、最低でも120億ドルを、MOUの署名と同時に「即時」解放しなければならないというものだ 。テヘランが総額240億ドルと主張する残りの資金も、60日以内に解放される必要がある
。これは交渉術ではなく、テヘランの視点では譲れない前提条件なのである
。
米国の立場: ワシントンは、資金の前倒し解放という考えを真っ向から拒否している。米国当局者は、制裁緩和(凍結資産へのアクセスを含む)は、イランの検証されたコンプライアンス(合意順守)に基づいて段階的に構成されると主張する 。米高官は「イランは一切の現金を受け取っておらず、前払いの制裁緩和も提案されていない」と明言している
。米国は、カタールの協力のもとで運営される人道的メカニズムを通じて、制裁対象外の購入のための資金へのアクセスを認める可能性を示唆したが、これはテヘランの要求には遠く及ばない
。
資産を巡る争いに加え、米国とイランの当局者は、公の場で異なる二つの合意内容を説明しており、混乱と不信感を生んでいる。
仮に資産問題で妥協点を見いだせたとしても、別の、一見手に負えない問題が署名への道を阻んでいる。イランは、米国とのいかなる合意を最終決定するためにも、レバノンでの停戦を「譲れない条件」として宣言しているのだ 。
この条件は、現在満たされていない。6月4日、ヒズボラの指導者ナイム・カーセム師は、米国が仲介したイスラエルとレバノンの停戦合意を公式に拒否し、この合意は一方的であり、戦闘員の降伏を要求するものだと非難した 。彼は、レバノン全土からのイスラエル軍の完全撤退を要求した
。この拒否により、脆弱な停戦は即座に崩壊し、イスラエル軍とヒズボラの間で敵対行為が再燃した
。
これは、イランが自らの前提条件を履行する能力を直接的に損ない、米イランMOUを宙に浮いた状態にしている。レバノン戦線が活発なままであれば、イランはそれを交渉遅延の口実に使える一方で、より広範な紛争に直接引きずり込まれるリスクにも直面する 。
このプロセスを繋ぎ止めてきたのは、積極的に動く二カ国による仲介チームである。
イラン外務省は、米国が外交プロセスを損なう行動を取っていると非難しながらも、両国の仲介努力は公に認めている 。この激しいシャトル外交は、イスラマバードとドーハに計り知れない地政学的重圧をかけている。成功すればノーベル平和賞に値するが、失敗すれば破滅的な結果を招きかねない。
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