これにより、SpaceXには数十億ドル規模の最先端Nvidia GPUインフラが遊休状態で残された。そのコストを吸収する代わりに、同社は市場でGrokを打ち負かしたまさにそのライバルたちに、計算能力をリースし始めたのである。
SpaceXの変貌は、それぞれが前回よりも衝撃的な、3つの個別契約を通じて開示された。
SpaceXが2026年5月20日に提出したS-1申請書類で開示された契約によると、Claudeの開発元であり、Grokの直接の競合であるAnthropicが、2029年5月までColossusデータセンターへのアクセス料として月額12.5億ドルを支払うことに同意した 。年額に換算すると150億ドルであり、この数字はSpaceXの宇宙事業と通信事業の2025年の合計収益にほぼ匹敵する
。契約期間全体では、最大450億ドルの収益に相当する
。
その経済性は驚異的だ。申請書類の分析によれば、SpaceXはこの単一の契約により、AIインフラへの設備投資額を1か月未満で回収できる計算になる。開示されたコストが仮に2倍だったとしても、回収期間は2.2か月だ 。
2026年6月5日、IPOのわずか1週間前、SpaceXはS-1を修正し、2つ目の大型契約を明らかにした。Googleが、約11万台のNvidia GPUと関連インフラへのアクセス料として、2026年10月から2029年6月まで月額9.2億ドルを支払うというのだ 。
Googleはこの契約を、同社のAIプラットフォーム「Gemini Enterprise」の急増する需要に対応するための「短期的かつ時宜を得た、橋渡しのためのキャパシティを確保するための合意」と説明した 。契約期間中の総支払額は約300億ドルに上る
。
2026年4月19日に、大人気のAIコーディングツール「Cursor」を開発するAnysphere社と締結された3つ目の契約は、単なる計算リソースのリースを超えたものだ。GPU容量契約に加えて、SpaceXはIPO後7〜30営業日の間に行使可能な、評価額600億ドル相当でのCursor買収オプションを確保した 。
Cursorの現在の年間収益ランレートは約30億ドルと推定されている 。このオプションが行使されれば、SpaceXは急速に成長するAIソフトウェア事業を手中に収め、ロケット打ち上げ会社、衛星通信事業者、AIコングロマリットの間の境界線はさらに曖昧になる。
契約金額の数字が驚異的である一方、これらの取引の構造は、SpaceXの新たなビジネスモデルに並外れた脆弱性をもたらしている。主なリスクは次の通りだ。
90日間の解約条項: AnthropicおよびGoogleの両契約は、いずれの当事者も90日前の通知のみで契約を解除できる 。これらは長期的に固定された契約ではない。事実上、どちらかの当事者が1四半期の間に解消できる短期リースなのだ。イーロン・マスク自身、Anthropicとの契約を「相互に90日前の解約通知が可能な180日間のリース」と公に説明し、数年にわたる確約という以前の説明と矛盾させている
。
極端な顧客集中リスク: AI部門の収益の大部分は、わずか2社の顧客(AnthropicとGoogle)からもたらされている。どちらかが解約条項を行使すれば、AIによる収益ストーリーは急速に崩壊する可能性がある 。
SpaceXによる計算リソースの回収権: S-1申請書類では、SpaceXが自社利用のために計算リソースを回収する権利を保持していることが開示されている。これは、同社の裁量により、顧客へのコミットメントと収益を混乱させる可能性があることを意味する 。
根底にある巨額の損失: 莫大な新収益源があるにもかかわらず、SpaceXのAI部門は依然として深刻な赤字を抱えている。AI部門は2026年第1四半期だけで24.69億ドルの営業損失を計上した。この額は、全社の2025年通期の営業損失である25.89億ドルにほぼ匹敵する 。会社全体では、2026年第1四半期に42.8億ドルの純損失を報告し、累積損失は413億ドルに達している
。
SPCX株への投資を検討する者にとって、中核となる投資テーマは、今や次のような微妙なバランスの上に成り立っている。
AI収益は本物だが、証明されていない。 年間260億ドルのクラウド収益ランレートは、半年前には存在しなかった、正当で変革的な収入源であり、他部門の損失を相殺し、力強い成長シナリオを提供している。しかし、この収益の1ドルたりとも、90日のリスク期間を超えて固定されているわけではない。
評価額は完璧な実行を前提としている。 1.75兆ドルという評価額は、Microsoftを超え、AppleとNvidiaに次ぐテクノロジー巨大企業並みの価格設定だ 。しかし、同社は深刻な赤字であり、2025年の連結売上高186.74億ドルに基づく株価売上高倍率(PSR)は約93.7倍と、極めて高い
。投資家は、高リスクの変革の初期段階にある事業に対し、異例のプレミアムを支払っている。
Anysphereオプションは潜在的な起爆剤。 SpaceXがIPO直後にCursorの買収権を行使すれば、急成長するAIコーディングプラットフォームがポートフォリオに加わり、長期的なソフトウェアストーリーが強化される可能性がある 。しかしながら、600億ドルの買収は、既に資金が流出している企業にとって、途方もない支出となる。
最終的な結論は「脆弱性」だ。 SPCXは、宇宙打ち上げ、衛星通信、AIインフラを網羅する、独自の多角的なポートフォリオへのエクスポージャーを提供する。AI計算リソース契約は純粋に印象的であり、同社の収益構造を根本的に変えた。しかし、投資家は、長期にわたって証明されておらず、2社の顧客に極度に集中し、いつでも解約可能な収益に対して、高いプレミアムを支払っているのである。AnthropicやGoogleの戦略が少しでも変われば、1四半期の間に会社の財務状況を大きく変えかねない。あるアナリストが指摘したように、「IPOのストーリーは、今や部分的にはSpaceXがAIインフラ事業になることにかかっている」――そして、そのストーリーはまだ紡がれている途中なのだ 。
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