本領を発揮するのは6月15日からだ。その日以降、このETPはSPCXの1日の騰落率の3倍の値動きを目指す。リセットは毎日行われる 。この「日次リセット」型の設計は、複数日にわたるリターンが単純な「3倍」の計算から大きく乖離する可能性を意味し、特に上場したばかりの時価総額100兆円超の銘柄にとっては、目が離せないリスク要因となる
。
ロンドン市場への上場は、これまでスペースXへの投資機会から締め出されてきたと感じていたイギリスの個人投資家からの、爆発的な需要に応えるものだ。複数のイギリスの証券会社が、スペースXのデビューに参加したいという顧客からの問い合わせが急増していると報告している 。
BBCによれば、イギリスの個人投資家は今回のIPOで約1.5兆ポンド(約2800億円)相当の株式を取得する見込みで、ある大手投資プラットフォームは、これが新世代のトレーダーを生み出すきっかけになることを期待しているという 。
実際の株となるスペースX自体も、記録を塗り替えている。同社はIPO価格を 1株135ドル に設定し、 750億ドル(約11.5兆円) という、金融史上断トツの巨額調達を目指している 。この価格水準では、スペースXの時価総額は約 1.75兆ドルから1.77兆ドル(約270兆円) に達し、全米第7位の企業として、テスラをも追い抜く計算だ
。投資家からの需要は調達額の3.5倍から4倍にあたる2500億ドル(約38.5兆円)を超え、価格帯ではなく異例の「固定価格」方式が採用された
。
しかし、プロの分析がこの楽観的な価格に同調しているわけではない。独立系調査会社モーニングスターは、スペースXのカバレッジを開始し、その公正価値をわずか 7800億ドル(約120兆円) と評価、経済的堀(エコノミック・モート)の格付けは「ナロー(狭い)」とした 。
アナリストのニコラス・オーエンス氏は、割引キャッシュフロー分析を適用し、同社がIPO目標では「著しく過大評価されている」と結論付け、投資家は上場後により魅力的な買い場を見つける可能性が高いと指摘した 。
この評価差の主な原因は、2026年2月に高コストで買収したAI事業「xAI」の存在だ。モーニングスターは、この事業の収益化には幅広い可能性があり、その経済的堀は「不確定」で、企業価値を毀損する「重大な脅威」になり得ると見ている 。
懐疑論者の主張を裏付けるのが、同社の足元の収益だ。スペースXが記録した損失は、以下の通りである。
これらの損失の一端はxAI部門にある。同事業は2026年第1四半期にわずか8.18億ドル(約1260億円)の収入しか上げられなかった一方で、約25億ドル(約3900億円)もの営業損失を出している 。著名な空売り投資家ジム・チャノス氏は、1.77兆ドルという評価額を「絵に描いた餅(pie in the sky)」と公然と批判し、収益化への道のりの長さを指摘した
。
ELON / MUSKというETPは、デイリー・コンパウンディング型レバレッジ商品であり、この構造には特有の、しばしば誤解されるリスクが伴う。レバレッジ・シェアーズ自身の資料も明快だ。この種の商品は、あくまで1日の値動きに対して、対象資産のパフォーマンスを所定の倍率で増幅させることを目的としている 。
これを複数日にわたって保有した場合、そのリターンは「経路依存性」を持つ。仮にSPCXの株価が乱高下を繰り返した場合、たとえ最終的に元の価格に戻ったとしても、ETPの資産価値は目減りしてしまう可能性があるのだ。運用会社自身も、この商品は「利益と同様に損失も増幅させる」ため、短期取引に向けたものであると警告している 。
したがって、このETPの投資妙味は極めて限定的だ。初めての決算発表や大型ロケットの打ち上げ成功など、特定の材料に対する短期的な方向感を賭けるトレーダーにとってのツールと言える。しかし、世紀のIPO銘柄をバイ・アンド・ホールド(長期保有)しようと考えるなら、モーニングスターの基本シナリオである120兆円という評価だけを見ても、本当の底値を見つけるまでに長い下落に耐える覚悟が必要になるだろう 。
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