資金の流れは、単に高い利回りを追いかけただけではありません。「いずれ国債は踏みとどまり、そして急騰する」という明確な投資テーマに基づいていたのです。
紛争当初、ブレント原油は1バレル約72ドルから119ドルまで急騰し、市場は中央銀行の利下げ期待を2026年末〜2027年へと大幅に先送りしました 。しかし2026年半ばまでに、多くのファンドマネージャーが「このインフレ圧力はピークに達しつつある」と主張し始めました。供給ショックはいずれ和らぎ、エネルギー高が世界経済の重荷となるシナリオが、インフレを上回るというのです。インフレが経済活動を蝕めば、国債は伝統的な「安全資産」としての輝きを取り戻す、という見立てです
。
今回の国債急落は、主要なソブリン債市場に、歴史的な投資妙味をもたらしました。
逆張りシナリオを最も顕著に示したのが、債券運用の巨人PIMCOです。CIO(最高投資責任者)のアンドリュー・ボールズ氏は4月、欧州国債のポジションを「アンダーウェイト」から「オーバーウェイト」に転換し、PIMCO傘下のグローバル債券ファンドで買い増しに動いたことを明かしました 。同氏は、それまで人気だった取引の巻き戻しが生んだ「ミスプライシング(誤った価格付け)」を指摘しています。
その数週間前には、PIMCOとJPモルガンが共同で「債券市場は世界的な景気減速リスクを過小評価している」と警鐘を鳴らしました 。理屈は単純です。もしインフレよりも景気後退への恐怖が勝てば、債券は急騰する。現在の高い利回り水準でそれが正しければ、リターンは巨額になる、というわけです。PIMCOの大局観は「世界的に、債券市場は極めて魅力的だ」というもの。景気後退シナリオの織り込みが不十分だから、というのがその理由です
。
この海峡をめぐる状況は、奇妙なことにどちらに転んでも国債保有者に有利に働く「二項対立リスク」をはらんでいます。
4月の停戦は平和交渉を開始させ、利回りへのプレッシャーをいくらか和らげましたが、2026年6月時点でも状況は未解決のままです。「海峡再開=ディスインフレ」「封鎖継続=リセッション」。この二律背反が、国債への逆張り投資の論理を支え続けているのです。
資金の再配分の規模は、120億ドルという見出し数字にとどまりません。ある中東のソブリン・ウェルス・ファンドは、投機的なハイテク株から米国・欧州の国債へと、推計150億ドルもの資金をシフトさせたと報じられています 。また、別の報告期間には、投資家が社債のリスクを減らし国債のデュレーション・リスクを受け入れる中で、グローバル債券ファンドに196億ドルが流入しました
。米国の大手運用会社PGIMも、「第1四半期の不安が国債利回りとクレジット・スプレッドを長期的に魅力的な水準に押し上げた」と総括しています
。
逆張り投資家にとって、その判断はシンプルです。債券の将来リターンを最も正確に予測する指標は、「スタート地点の利回り」だからです。今回の急落は短期的な損失をもたらしましたが、同時に、PIMCOやPGIM、フランクリン・テンプルトンといった一流機関が「異常なほど魅力的」と見なす水準に、投資のスタートラインを再設定したのです。このトレードが最終的に成功するかどうかは、ただ一つ、イランとオマーンの間にある細長い海路の行方にかかっています。
Comments
0 comments