グーグルはこの契約について、自社の法人向けAIサービス「Gemini Enterprise」へのアクセスが急増する中での「需要を満たすための橋渡し的な計算能力(ブリッジキャパシティ)」であり、極度の供給制約下での短期的な合意だと説明している 。
BNPパリバのスロウィンスキー氏は、この開示を受けてリサーチノートを発表し、グーグルとスペースXの契約はAI計算資源市場の逼迫度を如実に示す独立した証拠であり、マイクロソフトのクラウドビジネス「Azure」に直接的な強気材料をもたらすと論じた 。
その主張は、3つの論理で支えられている。
1. 需要が巨大クラウド事業者の供給力さえも凌駕している。 グーグルは、独自開発のAI半導体「TPU」のインフラを運用し、世界最大級のクラウド事業者でもある。しかし、それでもなお社外に出て、月額9.2億ドルという対価を支払って外部のGPU計算資源を借りている。スロウィンスキー氏の読みは、「グーグルが自社のAI計算需要すら満たせないのなら、誰も満たせない」ということであり、需要と供給のアンバランスは長期化するというものだ 。
2. 価格決定力がクラウドプラットフォームに移行している。 この契約は、AI推論処理のような大規模でスケジュール可能なGPUクラスター上での計算(ワークロード)に対する価格決定力が、クラスターの運用者側にシフトしていることを示す 。企業が競ってAIワークロードをクラウドに移行する中、BNPはこの流れを、Azureがプレミアム価格を維持できる根拠として、極めてポジティブに捉えている。
3. 短期的な契約でも、長期的なシグナルは揺るがない。 スロウィンスキー氏は、今回の契約や、その数週間前に発表されたAnthropicとスペースXの月額12.5億ドル(約1900億円)の契約 が「供給制約下での短期的な契約」として設計されていると認めつつも、「それでもなお、クラウドAIインフラに対する堅調な需要を強く裏付けるものだ」と強調した
。
その含意は明快だ。もしこれらの契約が更新される時点で、価格が今よりさらに上昇するようなことがあれば、Azureの成長率は現在の市場コンセンサス予想を押し上げ、40%台半ばにまで到達する可能性がある 。
BNPパリバは、スペースXとグーグルの契約が明らかになる前から、マイクロソフトに強気の見方をとっていた。スロウィンスキー氏は、ウィスコンシン州とアトランタに新設されたデータセンターによる供給能力の拡大を追い風に、Azureの成長率は今後数四半期にわたって40%を超えるとモデル化していた 。スペースXとグーグルの契約は、AIインフラの不足が現実に進行中であるという外部証拠を提供することで、この見方をさらに強固にしたのだ
。
Azureのインフラ収入に加え、BNPパリバは、マイクロソフトのAIアシスタント「Copilot」の有料シート数が2026年度末までに2500万を突破し、2四半期で1000万以上増加すると予測している。これもまた、Azureの基盤的な成長に上乗せされる、AI駆動の新たな収益の柱となる 。
スロウィンスキー氏は、マイクロソフト株の投資判断を「アウトパフォーム」(買い推奨に相当)で据え置き、目標株価555ドルを維持している 。この目標株価は、2026年初頭の659ドルからは引き下げられている。その主因は、マイクロソフトの巨額な設備投資の見通しである(BNPは2027年度の設備投資額が約15兆円(1500億ドル) に達すると予想している)と、ソフトウェアセクター全体のバリュエーション低下だ
。しかし目標株価を引き下げつつも、最も強気な投資判断を維持したことは、短期的な支出増への懸念を超えて、長期的なAI需要の物語に対する強い信念の表れだ
。
2026年6月上旬時点で、マイクロソフトの株価は403ドル前後で推移しており 、BNPの目標株価555ドルは 33%〜38%のアップサイド を示唆している。ウォール街全体のコンセンサス目標株価は、平均で約561ドル、最高値は730ドルと、さらに強気だ
。
スペースXとグーグルの契約は、AI計算資源が「レンタル可能なインフラ資産」へと変貌を遂げつつある象徴的な出来事だ。スペースXは数週間以内に、Anthropicとの契約に続き、今回で2件目となる超大型の計算資源リース契約を結んだことになる 。これにより、同社はAI計算資源の「大家」として、IPOを控える中でGPUクラスターを毎月の家賃のような経常収益に転換するポジションを確立しつつある
。
長期的な投資家にとっての要点は明確だ。AIインフラの大規模構築は、すぐに弾けるバブルではない。それは、供給が逼迫し、キャパシティそのものがプレミアム価格を生み出す市場である。グーグルが、競合相手とも言えるスペースXに対し、GPU利用のために毎月1400億円近い大金を支払うと決断した背景には、それだけの価値があると判断せざるを得ない、絶対的な供給不足が存在する。これは、Azure自身の莫大な計算基盤への投資が、今後何年にもわたって大きなリターンを生み出す可能性を強く示唆するシグナルなのだ。
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