この巨大案件への需要は極めて旺盛だ。機関投資家からの注文はすでに100億ドルを超えており、ブルームバーグの報道によると、需要は募集総額の約2倍(約1,500億ドル)に達し、銀行団は6月10日に機関投資家の注文受付を締め切るとされている 。この資金移動の余波は大きく、機関投資家や個人投資家がスペースX株の購入資金を確保するために他の銘柄を売却することで、市場全体に約500億ドルの売り圧力がかかるとの分析もある 。
この歴史的IPOから最も取り残されているのが、中国本土や香港の個人投資家だ。資本規制や市場アクセスの制限により、SPCX株を直接購入することがほぼ不可能なためである 。そこで彼らが取った行動は、「代理銘柄(プロキシー・プレイ)」への殺到だった。
具体的な資金の流れは以下の通りだ。
熱狂の裏で、深刻な対立軸も浮上している。2026年5月13日、米国を代表する3つの公的年金基金──カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、ニューヨーク州共通退職基金、ニューヨーク市年金基金──は、SpaceXの企業統治構造を「前例のなく、極端」であると批判する共同書簡をイーロン・マスクCEOらに送付した 。
これら3基金の運用資産総額は合計で1兆ドルを超え、長期投資家として無視できない存在だ。彼らが問題視する統治構造の要点は以下の通り。
| 統治構造の特徴 | 詳細 |
|---|---|
| 永久的な超議決権株式 | マスク氏が保有する株式は、通常の株式の10倍の議決権を持ち、その権利が未来永劫にわたり消滅しない 。 |
| CEO解任の制限 | マスク氏をCEOから解任するには、本人の同意が必要と報じられている。つまり、実質的に解任不可能な状態 。 |
| マスク氏の議決権集中 | 単独の創業者が**議決権の85.1%**を掌握。これにより、取締役会の構成や株主総会の議案、会社の戦略的方向性まで、全ての決定を独力でコントロールできる。この規模で前例のない構造だ 。 |
| 株主の権利空洞化 | この構造は、「公開市場の株主に対する説明責任を、法的義務から創業者の『任意の善意』に近いものに変えてしまう」と専門家は分析する 。 |
年金基金側は、これらの規定が「米国市場にもたらされる、経営者に最も有利な統治構造」になると強く警告しているが、IPOはこの統治構造を維持したまま予定通り進行している。これは、マスク氏が未上場企業のCEOとして享受してきた絶対的なコントロールを、上場後も手放さないという固い意志の表れといえるだろう 。
このIPOは、宇宙開発の未来への期待と、カリスマ経営者への絶大な信託、そして現代のコーポレートガバナンス(企業統治)の限界を同時に問う、稀有なケースとして歴史に刻まれることになりそうだ。