累計取引高が1,000億ドルの大台を突破したのは2026年3月24日。これは「HIP-3」の正式ローンチから約220日後のことだった 。すでに1月には初の日間20億ドル突破を達成しており、2月には54億5,000万ドルを超える日も出ていた
。
比較してみよう。ブラックロックのiシェアーズ・シルバーETFの週間取引高の実に約11.1%に相当する6億6,000万ドルが、トークン化された銀の市場で動いたのだ 。一つのDeFiプロトコルが、上場投資信託(ETF)という巨大商品の取引量の1割以上を飲み込んでいる。
これは、S&P500に連動する「世界初、そして唯一の公式認可を受けたオンチェーン無期限先物契約」である。週末も含めて24時間365日決済が行われ、決済通貨は米ドル連動のステーブルコインUSDC。米国外居住者のみが取引可能という制約はあるが、このライセンスが意味するものは大きい 。
Trade.xyzにとって、このライセンスは信頼性の証明であると同時に、競合との差別化を決定的にする「堀(モート)」となった。世界で最も象徴的な株価指数を、原油、銀、個別株、未上場株のプレIPO(新規株式公開前)契約と並べて、単一の注文板上に載せられるようになったからだ 。この時点で、すでに取引所は累計1,000億ドル超、年間換算6,000億ドル超の取引高を誇っていた
。
2026年5月1日、Trade.xyzは静かに、しかし極めて挑戦的な新商品「プレIPOパーペチュアル(IPOP)」をローンチした 。第一号として上場したのは、米国のAI半導体メーカー「セレブラス(Cerebras Systems)」の契約。同社が米証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)の申請書(S-1)を提出した直後のタイミングだった
。
これは株券でも、IPOの割当枠でも、トークン化された株式でもない。「上場前の価格発見」という目的のためだけに設計された、現金決済型の差金決済取引だ。要するに、将来上場したらいくらになるか──その予想に賭ける仕組みである。
史上最大級のIPOと目される未上場企業へのプレIPOパーペチュアル契約(ティッカー:SPCX-USDC)が、「参考価格150ドル」で取引を開始した。これは完全希薄化後株式数118億7,000万株に基づくと、SpaceXの評価額が約1兆7,800億ドル(約280兆円)という想定だ。だが、価格は開始数時間で216ドル(評価額2.5兆ドル超に相当)に急騰する過熱ぶりを見せ、その後203ドル近辺に落ち着いた。最初の12時間だけで4,000万ドル以上が売買された 。
もちろん、SpaceX社がこの取引を認可したわけではない。同社の株券が動いたわけでもない。これはあくまで、オラクル(外部情報をブロックチェーンに伝える仕組み)が価格を提示する合成(シンセティック)市場であり、完全に企業のコントロールの外にある。それでもトレーダーたちはこの市場に殺到した 。
これらの取引は、高速処理に特化して設計された「ハイパーリキッド」のカスタム・レイヤー1ブロックチェーンがなければ成立しない。このチェーンは完全なオンチェーン注文板を数秒以下のファイナリティ(取引の確定)で処理する 。
2026年6月初頭、ハイパーリキッドは1日あたりの無期限先物取引高で103億1,900万ドルを記録。これは全チェーンのオンチェーン無期限先物市場のシェア50.8%に相当し、ソラナやイーサリアム、アービトラムの合計を上回る 。
2026年3月のアクティブトレーダー数は23万1,000人に達し、これは1月の約15万人、2025年2月のわずか1万8,000人からの劇的な成長を示している 。2026年第1四半期の総取引高(現物と無期限先物の合計)は6,330億ドルに達した
。
プラットフォームのネイティブトークン「HYPE」も堅調だ。5月21日に史上最高値となる62ドルを突破し、6月初旬には72ドル台へ。さらに、現物のHYPE ETFは5月のローンチから14営業日連続で資金の純流入を記録している 。
そして今や、プラットフォームの取引の主役は伝統的資産だ。建玉(オープンインタレスト)上位30市場のうち、暗号資産のペアはわずか7つ。残りはコモディティ、株式、株価指数が占める 。この傾向を象徴するのが、伝統的な先物市場が閉まっている週末の「取引ギャップ」を完全に埋めているという事実だ。2026年3月9日の中東情勢緊迫化の週末、CMEの原油先物市場が閉じている間に、ハイパーリキッドの原油契約の取引高は約2,100万ドルから12億ドル超へと爆発的に増加した
。
ここで起きているのは、一つの取引所や一つのトークンの成功話ではない。分散型無期限先物取引所(DEX)の市場シェアは、2年前は世界の暗号資産デリバティブ市場全体の約2%に過ぎなかったが、今では約26%にまで急拡大し、月間の取引高は1.2兆ドルを突破している 。
Trade.xyzはこの流れの最大の受益者である。なぜなら、株式、指数、コモディティ、そしてプレIPO企業へのレバレッジをかけた24時間365日のエクスポージャー(投資上の感応度)を、単一のウォレットとUSDCだけで実現しているからだ。KYC(本人確認)も、適格投資家チェックも、取引時間の制限もない 。
これは、従来の金融の「台本」に則ったものではない。ノンカストディアルで、価格はオラクルが供給し、スマートコントラクトが執行し、許可不要のレイヤー1チェーン上に存在する──根本的に異なる金融インフラだ。トレーダーにとっての価値提案は極めて明快だが、規制当局にとっての解釈は、まだこれから整理されなければならない状況にある。
SpaceXのプレIPOパーペチュアル契約は、この緊張関係を結晶化させた。複数の報告が、この上場を「世界的な規制のグレーゾーン」であり、「規制上のグレーゾーン論争」を引き起こしていると明示的に表現している 。
もし中央集権型の取引所や証券会社が、この商品を米国の個人投資家に提供すれば、ほぼ確実に証券法違反となる。Trade.xyzがそれを実現できるのは、これが「登録された取引所」でも「ブローカー・ディーラー」でもない「ノンカストディアルなオンチェーンプロトコル」だからだ 。
現在、この「オンチェーン上の伝統的資産の合成デリバティブ」に対する正式な規制枠組みは、米国でも、EUの暗号資産市場規制(MiCA)の下でも、アジアでも確立されていない。米SECは報告書でハイパーリキッドが「革新的な新市場を継続的に立ち上げている」と言及しつつも、公的な強制措置には至っていない 。
未解決の問いは山積みだ。
現実として、週間で数百億ドルを処理し、S&P500の公式ライセンス商品を含み、世界最大級の未公開企業への投機を誰でも可能にする市場が、既存の法的枠組みのほぼ外側で動いている。この状態がいつまで続くのか──これこそが、オンチェーンデリバティブ市場における最大の「未解決問題」であり、Trade.xyzとハイパーリキッドのエコシステムにとって最大のリスクであることに変わりはない。