この矛盾は、現場の厳しい現実を反映している。封鎖は公式には終了しても、米軍は依然として「脅威」または「非協力的」と判断した船舶を停止させる権限と態勢を維持しているのだ。
2026年5月4日、米国は「プロジェクト・フリーダム」作戦を発動した。これはイランが実効支配するホルムズ海峡を再開し、実に90%以上も落ち込んだ船舶通航量を回復させることを目的とした公式作戦である。しかし、その中身は当初の発表とは大きく異なるものとなった。
もともとトランプ大統領は、海軍が商船を直接護衛して海峡を通過させる計画を発表していた。イランへの公然たる挑戦ともいえる手法だが、この計画は後に破棄された。代わりにCENTCOMが選んだのは、注目を集める大規模な海軍エスコート(護衛)ではなく、目立たず、より実務的な方法だった。それは、協力的な商業船舶の運航会社と一船ずつ個別に連携し、航行を助言・誘導するというものだ
。
少なくとも2社の海運会社が、米軍から航行アドバイスを受けるために連絡を取り合っていたことを認めている。『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に応じた複数の情報筋によると、CENTCOMは6月1日までの約3週間で、イランの海岸線から離れた専用の通航路(レーン)を使い、約70隻の船舶をペルシャ湾への出入りへと導いた
。
その航行方法は極めて特殊だ。ほとんどの船舶は、イランに探知されるのを避けるため、自船の位置情報を発信する船舶自動識別装置(AIS)の電源を切っている。つまり、彼らは「レーダーから消えた」状態で、中央軍からの誘導だけを頼りに航行しているのである。
CENTCOMは、これらの航行に対して「武装護衛」は提供していないと強調している。その代わりに海軍は航行の安全を確保するための「コーチング」を商船の乗組員に対して行っており、この取り組みはバーレーンにある米第5艦隊司令部も公式に認めている
。
「米軍がオマーンからヘリコプターを飛ばし、商船を誘導している」という具体的な主張については、調査した限り、それを裏付ける証拠は見つかっていない。
CENTCOMは、封鎖を強制する海上強襲部隊の作戦として、MH-60Sシーホーク・ヘリコプターから海兵隊員が船舶に降下する様子を公開している。また、米軍のアパッチとMH-60ヘリが5月初旬の作戦中に、ホルムズ海峡付近でイランの高速艇6隻を撃沈してもいる
。
しかし、現在公表されている証拠資料のいずれにも、オマーンを発進基地としたヘリコプターによる船舶誘導プログラムについての記述はない。したがって、この主張は現時点では「未確認情報」として扱うのが妥当だろう。
米軍による船舶の進路変更(リダイレクト)作戦は、桁違いの規模で行われてきた。
これらの進路変更は、イランの港に向かう、あるいは出港した船舶を標的にしたものだ。この作戦には、封鎖を突破しようとした船舶のエンジンを無力化することも含まれており、CENTCOMは米海軍の水兵が船舶に対し「回頭しろ」と警告する模様を捉えた映像も公開している。
ホルムズ海峡の船舶通航量は戦時中の底からは回復したが、依然として正常な水準を大きく下回っており、その回復ペースは遅く、不安定であることが判明している。
ブルームバーグの船舶追跡データによると、6月2日朝に海峡への入航が確認できた商船はわずか2隻で、前日は出航が2隻だった。独自の地理空間情報(ジオスペーシャル・インテリジェンス)を専門とするエネルギー調査会社エナジー・アスペクツは、さらに厳しい分析を示している。同社によれば、非イラン籍の満載タンカーで5月中に海峡を通過したのは「50隻未満」だった
。
エナジー・アスペクツは6月2日付の分析で、「個々の船舶の通航が『回復』を示唆する見出しを生んではいるが、総合的な状況はまったく異なる物語を語っている」と指摘。非イラン産原油の流出量は平時のほんの一部に過ぎず、この混乱は公式に「史上最大の石油・LNG供給ショック」であると断じている。
イランは、同海峡の通航量を1カ月以内に1日あたり約100隻の戦前水準に戻すことにコミットしている。しかし市場アナリストは、海峡が商業的に再開されたと見なすには、いくつかの具体的な条件が満たされる必要があると警告する。
S&Pグローバル・エナジーは、その条件を5つ挙げている。その第一は「船舶通航量の意味のある回復」だ。具体的には、通航量が戦前の50%から90%の水準に戻り、その状態が少なくとも1週間から4週間安定して継続する必要があると市場関係者は見ている。現状は、まだその段階には達していない。
海運データ分析のケプラー社のアナリストは、船舶の種類にもよるが、通航量の回復は5月から9月にかけて段階的に進むと予測している。現時点で海峡は、ケプラーが「制限・管理フェーズ」と分類する段階にある。すなわち、イランがいまだに通航に対する大きな支配力を保持しており、完全で自由な航行(フリーパッセージ)は回復していないのである
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