一般ユーザーにとって最も目に見える変化は、「Le Chat」ブランドの終焉だ。ミストラルのコンシューマ向けアシスタントは、Vibe へと生まれ変わった。Vibeは、プロダクティビティ(生産性向上)とコーディングの両方のタスクをこなす統合エージェントである 。おなじみの chat.mistral.ai のURLはそのままエントリーポイントとして残り、既存のアカウント、会話履歴、プランはすべてシームレスに引き継がれる 。
Vibeは、二つの主要なモードで構成されている。
三つ目のレガシーモードである Chat は、まだ移行が済んでいないワークフローのために、旧来のLe Chatの使用感をそのまま保存する 。
この統合は、GitHub CopilotやCursorといったAI支援開発ツールへの直接的な対抗軸だが、そこにはデータ主権とエンタープライズコンプライアンスという、際立って欧州的な価値観が込められている。
新しいVibe体験を支えているのは、Mistral Medium 3.5 だ。これは、256,000トークンのコンテキストウィンドウを持つ、高密度(Dense)な1280億パラメータモデルである 。2026年4月29日にパブリックプレビューとしてリリースされたこのモデルは、ミストラル初の「フラッグシップ統合モデル」であり、命令追従、推論、コーディングの能力を単一のモデルに統合したものである 。
この単一モデルは、Mistral Medium 3.1、Magistral、Devstral 2という三つの先行モデルを置き換える 。アーキテクチャの統合により、タスクの種類ごとに異なるモデルをメンテナンスする必要がなくなり、デプロイも簡素化される。
主な技術仕様は以下の通りだ。
このモデルは、修正MITライセンスの下でHugging Face上に公開され、ミストラルのオープンウェイト(重み公開)戦略を継続している 。SWE-Bench Verifiedベンチマークでは 77.6% のスコアを記録しており、トップクラスのコーディングモデルと競合するものの、Claude Sonnet 4.6には及ばない 。
ミストラルはこのサミットで新たな価格を発表しなかった。サブスクリプション構造は、以下のようにLe Chatで確立された体系からVibeへとそのまま移行された 。
| プラン | 月額料金 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| Free | 0円相当 | 基本アクセス、最新モデル、画像生成、ドキュメントアップロード、1日の応答数制限 |
| Pro | 約2,300円($14.99) | より高い使用制限、高速レスポンス、優先アクセス。学生割引で約1,070円($6.99)/月 |
| Teams | 約3,850円($24.99)/ユーザー | 共有ワークスペース、管理者コントロール、コラボレーションツール。年額契約で約3,080円($19.99)/ユーザー/月 |
| Enterprise | カスタム | プライベートクラウドまたはオンプレミス展開、カスタムモデル、専用サポート |
ProやTeamsを含むLe Chatの全プランは、Vibeプラットフォーム内で完全にそのまま維持される 。
リブランディングに伴い、開発者向けにいくつかの新しいツールが提供された。
リモートエージェントは、長時間の計算を必要とする複雑で複数ファイルにわたるソフトウェアエンジニアリングタスク向けに設計されており、リファクタリング、テスト生成、依存関係のアップグレードに最適だ 。
このサミットにおける大きな戦略的シグナルは、物理的産業への積極的な進出だった。ミストラルは 「Mistral for Industrial Engineering」 を発表した。これは、大規模言語モデルと物理シミュレーション機能を組み合わせ、製造環境における設計の加速、シミュレーションのボトルネック解消、資産パフォーマンスの最適化を実現するために設計された、新しい垂直統合型のソリューションである 。
二つの画期的なパートナーシップが確認された。
エアバスとBMWが最初の産業パートナーとして選ばれたのは意図的なものだ。両社は、巨大な研究開発拠点を持ち、機密性の高いデータを扱う欧州の主権的産業チャンピオンであり、アメリカのクラウドプロバイダーを避ける強い動機がある 。
ミストラルは、パリ南郊の レ・ジュリス(エソンヌ県) に、推論に特化した新しいデータセンターを2026年後半に開設することを確認した 。この施設は、ミストラルのモデルを稼働させるために、10メガワット の計算能力を提供する 。
このデータセンターは、より広範なインフラ計画の一部である。
これは、機密データを欧州域内に留める主権的な欧州AIインフラを構築するという、40億ユーロ 規模の投資戦略の一環である 。
AI Now Summitの発表は全体として、周到な戦略的転換を遂行しつつある企業像を明らかにした。ミストラルのCEO、アルチュール・メンシュはこの瞬間を率直にこう表現した。「AIの最も重要なユースケースは、研究開発と物理的なオブジェクトの創造にある」 。
現在、ミストラルはAIのバリューチェーン全体をカバーしている。
同社は、機密データをアメリカのハイパースケーラーに委ねることを拒否する組織のためのエンタープライズAIプロバイダーとして自らを位置づけている。これは、データ主権を最優先し、オープンウェイトモデルの配布を活用しつつ、商用プラットフォームと産業パートナーシップを通じて収益化する、一つの選択肢である 。