提案されている新たな監督枠組み
2025年12月4日、欧州委員会はこの流れを受け、資本市場統合パッケージを発表した。 その中核は、金融機関を規模と国境を越えた関連性によって2層に分けて監督する 「2層監督枠組み」 だ。
この監督一元化を実現するため、欧州委員会は2つの立法提案を行っている。
欧州理事会は、この動きを歓迎しつつ、加盟国間での 「収斂した監督実務(convergent supervisory practices)」 を確保するよう欧州委員会に要請している。 これは、形だけの一元化ではなく、実質的に統一されたルール運用を目指すものだ。
金融統合と並行して、EUは中国の過剰生産能力や不公正な貿易慣行からの自国産業防衛に強い危機感を募らせている。スロバキア出身のマロシュ・シェフチョビッチ貿易・経済安全保障担当欧州委員や、ステファン・セジュルネ産業担当欧州委員がその先鋒に立つ。
2018年から継続され、2026年6月30日に失効する現行の鉄鋼セーフガード措置に代わる新たな規制案について、2026年5月に欧州議会とEU理事会の間で政治合意に達した。 これは、世界の鉄鋼過剰生産からEU鉄鋼業界を守るための、極めて強力な措置である。
新セーフガードの主な内容
鉄鋼に留まらず、EUは他の産業分野でも中国製品に対するアンチダンピング関税を次々と確定させている。2026年だけでも以下のような決定が下された。
EUは今、これまでのような個別品目・企業への調査に基づく伝統的な貿易防御措置だけでは不十分だと認識している。「我々は、特定の企業や原材料だけでなく、分野単位でより一般的にセーフガード条項を発動する」と、セジュルネ産業担当欧州委員はフィナンシャル・タイムズ紙に語っている。 これは、中国の国家主導の過剰生産に対抗するための、抜本的な戦術転換を示唆するものだ。
また、欧州委員会はより積極的な新構想も練っている。その一つが、EU域内の企業に対し、特定国の単一サプライヤーへの依存度を30~40%以下に抑え、少なくとも3カ国以上からの調達を義務付ける規制案だ。 これは直接的に中国への過度な依存を断ち切ることを目的とした、「構造的規制要件」への転換と位置づけられている。
さらに、6月18日のEU首脳会談に向けては、中国製電気自動車(EV)への追加関税や、特定市場からの華為技術(ファーウェイ)排除など、より広範な対抗措置を議論するための「グリーンライト(承認)」を加盟国首脳に求める計画も報じられている。
EUの内部強化のもう一つの柱が、2026年3月4日に欧州委員会が提案した 「産業加速法(Industrial Accelerator Act: IAA)」 だ。 この法案は、脱工業化への危機感を背景に、ドラギリポートの提言も受け、EUの産業競争力を根本から立て直すことを目指している。
IAAの骨子
EUのこの「二正面作戦」は、ブレグジットや米中対立の狭間で、経済的な「戦略的自律」を確立しようとする強い意志の表れだ。資本市場統合は、域内に眠る巨額の民間資金を成長投資に振り向けるための必須条件であり、対中貿易防御と産業加速法は、その成長の果実を域外の不公正競争から守る盾となる。
しかし、課題も山積している。ESMAへの監督権限一元化は、金融立国であるアイルランドやルクセンブルクの強い反発が予想される。 また、貿易防御の強化は中国との全面通商紛争に発展するリスクを常にはらんでいる。
それでも、2026年6月末の鉄鋼セーフガード終了、6月のEU首脳会談、そして進行中の産業加速法の審議と、欧州はこの夏にかけて歴史的な決断の時を迎えようとしている。
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