その影響は既に数字となって表れている。ユーロ圏の民間セクター(製造業・サービス業の総合)は2026年4月に再び縮小に転じ、約1年半ぶりの弱さとなった。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのチーフ・ビジネス・エコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏は「ユーロ圏経済は中東での戦争により、深刻化する経済的苦境に直面している」と指摘する
。
もっとも、UBSなどは、今回のインフレは「一時的なエネルギー主導のショック」であり、基本シナリオとしてはリセッション(景気後退)には至らないと見ている 。しかし、「スタグフレーション」(景気停滞とインフレの併存)への懸念は確実に高まっている
。
このエネルギー危機がもたらした最大の波紋は、欧州中央銀行(ECB)の金融政策の大転換である。2025年まで続いていた利下げ路線は完全に消え去った。
ECBは2026年3月19日の理事会で政策金利(預金ファシリティ金利2.00%)の据え置きを決定すると同時に、2026年のインフレ見通しを「顕著に上方修正」した。ECBが四半期ごとに発表する専門家予測調査(SPF)でも、2026年の総合インフレ率(HICP)の見通しが急激に引き上げられている
。
ブルームバーグがエコノミストに行った調査では、ECBは6月と9月にそれぞれ0.25%ずつ、計2回の利上げを実施するとの見方が大勢だ。金融市場も同様のシナリオを織り込んでおり、金利スワップ市場では年内2回の利上げ確率が約70%とされている
。予測市場のポリマーケットでも、「少なくとも1回の利上げ」に対する確率は89%に達している
。
ECBの利上げは、企業の借り入れコストを上昇させ、景気を冷やす。これは株式のバリュエーション(割高・割安の評価)にとっては逆風以外の何物でもない。
困難なマクロ経済環境に加え、株式市場の構造そのものにもリスクが潜んでいる。それが、AI(人工知能)関連銘柄への過度な一極集中だ。
TSロンバードの調査によれば、過去1カ月半における欧州株のパフォーマンスのうち、3分の2以上を2つの「AI関連銘柄バスケット」が占めている。具体的には、ASML、インフィニオン、STマイクロエレクトロニクスなどの半導体サプライチェーン企業群と、AIを活用するソフトウェア関連企業群である。
TSロンバードのダヴィデ・オネリア氏は、これらの欧州AI銘柄群のパフォーマンスは米ナスダック総合指数に匹敵すると指摘する。この状況は、S&P500種指数でも時価総額加重平均が均等加重平均を大きく上回り、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる超大型ハイテク株が市場全体を牽引している米国と酷似している
。
この「狭さ」こそが、STOXX 600全体の脆弱性につながっている。AIへの期待や熱狂が少しでも後退すれば、市場全体を支えるだけの裾野の広さがなく、指数は大きく下落する可能性があるからだ。実際、2026年2月にはテクノロジーセクターからバリュー(割安)セクターへの資金移動が一時的に発生し、欧州指数にプラスに働いた局面もあった。
2026年の欧州株は、「イラン発スタグフレーション」と「AIバブル」という2つのリスクの狭間で、極めて不安定な綱渡りを強いられている。
ロイター調査が予測する「年央の調整(失速)を経ての微増」というシナリオは、以下の綱引きの結果である:
しかし、その追い風は、ごく一握りの企業に吹いているに過ぎない。投資家は、地政学リスクが長期化する「ダウンサイド・シナリオ」の可能性と、AIへの熱狂が冷めた瞬間に市場全体に連鎖するリスクを常に念頭に置く必要があるだろう。