ここで言うオンチェーンアクションとは、単なる残高照会ではない。暗号資産の送金やスワップ(交換)、DeFi(分散型金融)プロトコルへの参加など、実際に資金を動かす操作を指す。 従来、これらはMetaMaskなどの専用ウォレットを開き、ガス代を確認し、何ステップもかけて署名する必要があった。Base MCPの狙いは、その煩雑さを「ChatGPTに話しかける」という日常体験にまで落とし込むことだ。
この「AIエージェントがウォレットを操作する」という未来を支える技術的な柱が、Anthropicの提唱するモデルコンテキストプロトコル(MCP)だ。これは、AIモデルが外部のツールやAPIと構造化された方法でやり取りするための共通のUSB規格のようなものと理解すれば分かりやすい。
具体的な処理の流れは以下の通りだ。
このプロセスにおいて、プライベートキー(秘密鍵)はMCPサーバー自身が保持することはない。認証にはOAuth 2.1が用いられ、ユーザーはBaseアプリ上で最終的な変更内容をシミュレーションで確認した上で、送金やスワップなどを承認する設計になっている。 重要なのは、AIに無制限の権限を与えるのではなく、あらかじめ設定された許可行為と支出制限の範囲内で動作させることが、このシステムの大前提であるという点だ。
Base MCPがAIエージェントの「操作」の間口を広げる一方で、x402プロトコルは、そのAIエージェントがどうやって「支払い」をするかという根幹を刷新するものだ。
x402とは、インターネットの黎明期から存在しながら長らく使われていなかったHTTPステータスコード「402 Payment Required(支払いが必要です)」を復活させ、HTTP通信上で直接、瞬時に、自動的なステーブルコイン決済を可能にするオープンな決済標準である。
これが意味するのは、もはや「APIキーを発行して、月末にクレジットカードでまとめて請求」といった従来型の課金モデルからの決別だ。x402の世界では、以下のようなことが実現する。
この「リクエストごとに少額決済」というモデルは、AIエージェントが自律的に外部のデータやサービスを購入・活用する機械対機械(M2M)コマースの経済圏を支える決済レイヤーとなる。
今回の一連の発表は、単独のプロダクトリリースというより、コインベースが「AIエージェントの経済活動を支えるプラットフォーム」になろうとする戦略的な布石と見ることができる。
もちろん、これはまだ初期段階のインフラ整備である。Base MCPは2026年5月26日にリリースされたばかりであり、エージェントによる取引量が従来のクレジットカード決済や銀行振込と比較できるような規模に達しているわけではない。 しかし、The Graphのx402対応、ClaudeやChatGPTとの統合拡大、そしてAgentKitやMPCウォレットといった一連の開発ツールの充実は、AIが自律的に経済活動を行う「エージェント経済」への移行が、コンセプト段階から実行可能なインフラ構築フェーズへと確実に進んでいることを示している。