しかし、最も波紋を呼んでいるのは、衛星システムを規模で分類し、異なる規制を課すという新たな発想だ。具体的には、運用中の衛星数が1000基を超えるものを「ギガコンステレーション」と定義し、小規模なネットワークには適用されない厳格な順守義務を課すとしている
。この規模に基づく規制は、現状では米国企業にしか該当しないように巧妙に設計されている、とアナリストや米政府関係者は批判する。
米国政府は欧州委員会への正式な意見書の中で、この規模ベースのルールは「現在、米国の事業者にのみ影響を及ぼす」と異議を唱えた。さらに、国際法経済センター(ICLE)は、このEU宇宙法が「世界貿易機関(WTO)の原則に照らせば非関税障壁として機能する」と結論づけ、ギガコンステレーションの基準は「確立された国際安全基準や軌道リスクの科学的評価から導き出されたものではない」と断じている
。安全規制と見るか、競争障壁と見るか。このギガコンステレーションという分類は、今や米欧の宇宙政策をめぐる最大の火種となっている。
EUは規制の枠組みを整備する一方で、自らハードウェアの構築にも乗り出している。IRIS²(衛星による強靭性・相互接続性・安全保障のための基盤)は、全地球測位システム「ガリレオ」、地球観測計画「コペルニクス」に次ぐ、EUにとって三番目となる旗艦宇宙プログラムだ
。
2024年12月16日、欧州委員会は欧州の衛星通信大手SES、ユーテルサット、イスパサットが率いるコンソーシアム「SpaceRISE」と12年間の事業契約を締結した
。総事業費は106億ユーロで、このうち約65億ユーロが公的資金(欧州宇宙機関のパートナーシップ事業からの5億5000万ユーロを含む)、40億ユーロ以上が民間からの投資で賄われる
。
IRIS²の主な役割は、家庭向けブロードバンドでスターリンクに対抗することではない。その本命は、EU加盟国政府、防衛機関、重要インフラ向けの秘匿性の高い通信サービスの提供にある
。クビリュスEU国防担当委員は「IRIS²が完成すれば、スターリンクよりも優れたものになる」と語る一方で、欧州がまだその能力を持ち合わせていないことも認めている
。政府向けサービスの開始は2030年、初の衛星打ち上げは2029年を予定している
。
EUのこうした動きに対し、ワシントンも沈黙を守っているわけではない。2026年3月、ブレンダン・カーFCC委員長は、外国衛星事業者による米国市場への参入申請を認めるという「長年の前提」が、もはや妥当なのかどうかを問う意見公募を開始した。その公式通知の中で、見直しの根拠としてEU宇宙法の存在を明示している
。
さらに2026年4月には、スペースX社がFCCに書簡を送り、EUによる「差別的」な規制アプローチに対し、米国も「同様の手段で報復」し、欧州の衛星事業者の米国市場へのアクセスを制限するよう強く要請した
。その書簡では、ルクセンブルクに本拠を置くSESが、EUが米国企業に不利な規制を進める一方で、これまで米国市場へのアクセスの恩恵を受けてきた欧州事業者の一例として名指しされた
。
欧州側の事業者も反論している。ユーテルサットのエヴァ・ベルネケCEOは、こうした規制をめぐる緊張にもかかわらず、米国の企業や国防総省からの「スターリンク以外の」衛星サービスへの需要は底堅く、顧客との対話は継続していると述べた
。FCCによる相互主義の審議は現在も続いており、双方のシグナルからは、この紛争が沈静化に向かうどころか、むしろ激化しつつあることが読み取れる。
EU宇宙法案は、現在も立法プロセスの途上にあり、施行までには今後数年間をかけて段階的に適用されていく見通しだ。焦点の「ギガコンステレーション」に関する規定案は依然として法案に盛り込まれており、最終的な条文は欧州議会、EU理事会、欧州委員会の三者間の交渉を通じて固められていく。並行して、IRIS²計画も契約締結から初期開発段階へと移行しており、最初の打ち上げは2020年代末と見込まれている。
欧州が今、成し遂げようとしていることは、極めて明快であると同時に、非常に野心的だ。それは、いかなる外国企業にも遮断できない、主権的で安全な通信の「層」を自前で持つことである。その直接的な帰結として、軌道上からWTOの交渉の場にまで及ぶ、規制と産業をめぐる国家間の覇権争いが始まろうとしている。この戦いは、空のインフラの「所有権」とは何かを、世界に改めて問いかけることになるだろう。
Comments
0 comments