このLNPは、肝臓細胞の表面にある受容体(ASGPRやLDL受容体)を利用して選択的に細胞内に取り込まれます。細胞内に到達すると、塩基編集酵素はPCSK9遺伝子のDNAにわずか1文字の「点突然変異」を導入し、「終止コドン」を作り出します。これにより、PCSK9タンパク質を作れなくなり、遺伝子の機能が永久に失われるのです。
実は、この仕組みは人類の遺伝学からヒントを得ています。PCSK9遺伝子に先天的に機能喪失型の変異を持つ人々は、そうでない人々に比べて生涯を通じて冠動脈性心疾患のリスクが著しく低いことが知られています。VERVE-102は、この「幸運な遺伝子変異」を人為的に作り出す治療法と言えるでしょう。
2026年5月25日に発表されたデータは、心血管疾患の高リスク患者35名を対象としたもので、複数の異なる用量で1回の静脈注射が行われました。その結果、用量依存的にPCSK9とLDLコレステロールの強力な低下が確認されました。
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| PCSK9タンパク質の減少率(用量依存的な範囲) | 用量全体で平均51~88%減少 |
| 最高用量でのPCSK9減少率 | 最大88%減少 |
| LDLコレステロール減少率(0.6 mg/kg投与群の平均) | 平均53%減少 |
| LDLコレステロール減少率(0.6 mg/kg投与群の最大値) | 最大69%減少 |
| LDLコレステロール減少率(試験全体での最大値) | 最大62%減少 |
| 効果の持続性 | 投与から最大18ヶ月間、効果が持続 |
特に注目すべきは、この強力なコレステロール低下効果が、1回の投与で最長18ヶ月もの間持続した点です。これは、「一度の治療で一生涯の効果」を目指すというVERVE-102の開発コンセプトを強く裏付けるデータと言えるでしょう。
遺伝子編集治療において最も懸念されるのは、予期せぬ副作用です。事実、Verve社が以前開発していた同様の薬剤「VERVE-101」は、高用量で一時的な肝酵素上昇という安全性シグナルが確認され、開発が中止されました。
しかし、VERVE-102では改良されたGalNAc-LNP技術の採用により、この問題が解決されました。今回の試験で報告された安全性プロファイルは極めて良好です。
最高用量を含む全ての投与群で、一貫して良好な忍容性が確認されています。
これらの良好な結果を受け、VERVE-102の開発は次の段階へと加速しています。
Verve社は現在、VERVE-102以外にも、既存の治療では効果が不十分なホモ接合体性家族性高コレステロール血症を対象とした「VERVE-201」(ANGPTL3遺伝子を標的)や、高Lp(a)血症を対象としたLPA標的プログラムなど、心血管疾患に対する遺伝子編集治療のパイプラインを積極的に拡大しています。