問題は、設計主導権や知的財産、開発作業の分担をどう配分するかだ。ダッソーのエリック・トラピエCEOは、エアバスとの協力が成立しなければ戦闘機プロジェクトは**「事実上終わる」**可能性があると警告している。
フランスとドイツの政府は仲裁を試みており、NGFの崩壊を防ぐための期限を設けて調整を進めている。
この対立が長引くほど、疑問は大きくなる。
「もし共通の戦闘機が作れなければ、FCAS自体はどうなるのか?」
実は、FCASの本質は単一の航空機ではない。
計画は当初から、複数のシステムを組み合わせる “system of systems(システム・オブ・システムズ)” として設計されている。
主な構成は次の3つだ。
・NGF(次世代戦闘機):有人の第6世代戦闘機
・リモートキャリア(Remote Carriers):戦闘機と連携する無人機
・コンバットクラウド(Combat Cloud):各プラットフォームをつなぐデータネットワーク
これらはまとめて NGWS(Next Generation Weapon System) と呼ばれる。
つまり、1機の戦闘機がすべてを行うのではなく、複数の航空機・ドローン・センサーがネットワークで連携して戦う構想だ。
この設計のおかげで、仮に戦闘機の共同開発が停滞しても、他の技術領域は進めることができる。
FCASで最も革新的とされるのが コンバットクラウドだ。
これは戦闘機、ドローン、地上・海上・宇宙のセンサーや指揮システムをリアルタイムで接続するデータネットワークで、AIによる情報処理も想定されている。
このネットワークによって可能になるのは、例えば次のような作戦だ。
・複数の航空機が瞬時に目標情報を共有
・遠距離センサーからの情報で敵を先に探知
・無人機の群れによる協調攻撃
また リモートキャリアと呼ばれる無人機も重要な役割を持つ。これらは戦闘機の「僚機」として飛行し、偵察、電子戦、攻撃などを担当する。
こうした技術はソフトウェア、通信規格、AI、自律制御などが中心であり、特定の1種類の戦闘機に依存しない。
そのため、NGFが停滞しても、FCASの中核技術として開発を続けられる可能性が高い。
2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻は、欧州の防衛政策を大きく変えた。
EU全体の防衛支出は急増している。欧州防衛庁によれば、2024年のEU防衛費は3430億ユーロで前年比19%増。2025年には 約3920億ユーロに達する可能性がある。
この安全保障環境の変化は、FCASの前提にも影響を与えた。
欧州の政策立案者は次の点をより重視するようになっている。
・欧州独自の防衛産業と技術力
・ネットワーク化された多領域戦闘
・NATO内での戦力近代化の加速
一方で、防衛費の増加は別の問題も生む。ウクライナ戦争によって短期的な装備調達の優先度が上がり、2040年を見据えた長期計画であるFCASと予算が競合する可能性もある。
ダッソーとエアバスの対立が続く中、専門家の間では 「二つの戦闘機」シナリオも現実味を帯びてきた。
その構想は次のようなものだ。
・フランス主導で独自の戦闘機を開発(空母運用などフランス仕様)
・ドイツとスペインが別の戦闘機設計を推進
・両者は同じ FCASのネットワークとドローン体系で運用
エアバスの経営陣も、政府が求めればこの「二機種体制」に対応する可能性を示している。
これは当初の「欧州共通戦闘機」という理想からは大きく離れるが、協力を完全に崩壊させないための現実的な妥協案と見る向きも多い。
FCASの将来像は、次第に変わりつつある。
当初は **「1機の欧州共通第6世代戦闘機」**が象徴だった。
しかし現在は、むしろ
「共通のデジタル戦闘ネットワーク」
がプロジェクトの核心になりつつある。
もし各国が共通の通信規格、データリンク、武器統合、AI戦闘管理システムを採用すれば、異なる戦闘機でも同じ欧州戦闘エコシステムで運用できる。
逆にそれが実現できなければ、欧州は互換性のない国家別システムへと分裂する可能性もある。
FCASが単一の戦闘機として実現するのか、それとも複数の航空機を束ねる欧州共通の戦闘ネットワークへと進化するのか。
その答えは、フランスとドイツが産業対立をどこまで乗り越えられるかにかかっている。