ゼレンスキー氏は、戦争後の安全保障体制や和平交渉はワシントンだけで決めるのではなく、欧州も主体的に関わるべきだと繰り返し訴えています。
米国が仲介する交渉は何度か行われましたが、決定的な進展はありません。最大の争点は領土と安全保障保証です。
ウクライナは、自国の領土保全を守ることを和平の前提とし、ロシアに領土を正式に譲ることを拒否しています。
一方ロシアは、ドネツク、ルハンシク、ザポリージャ、ヘルソンなど、モスクワが「併合した」と主張する地域からウクライナ軍が撤退することを交渉再開の条件として求めています。
この立場の差は非常に大きく、ゼレンスキー大統領も「領土問題では今のところ妥協はない」と述べています。
もう一つの対立は、戦後の安全保障体制です。
ウクライナは、将来の侵攻を防ぐためにNATOに近い形の拘束力ある安全保障保証を求めています。
しかしロシアは、こうした仕組みはウクライナを西側の軍事圏に固定するものだとして強く反対しています。
この安全保障を巡る対立が、外交交渉の大きな行き詰まりとなっています。
戦場の状況は単純ではありません。ウクライナはロシアの大規模突破を防いでいるものの、軍には大きな負担がかかっています。
最大の問題の一つは兵力不足です。歩兵の不足が続いており、政府は徴兵・訓練・長期従軍兵の除隊制度などを見直す軍改革を発表しました。
それでもロシア側も決定的な突破には成功していません。分析では、2025年後半から2026年前半にかけてロシア軍の進撃速度は大きく鈍化しています。
さらに2026年4月には、ロシア軍が占領地域を純減させる結果となり、2024年のクルスク侵攻以来初めて月単位で領土を失ったと分析されています。
ウクライナはまた、ロシア国内の石油施設や軍事拠点への長距離ドローン攻撃を拡大し、防空網の負担を突いて戦争コストを高める戦略も進めています。
もう一つの大きな制約は財政です。
ウクライナの戦時予算は国内収入を大きく上回っており、巨額の財政赤字を国際支援で補っています。
EUや国際金融機関は2026~2027年を見据えた大型融資などで支援していますが、それでも資金不足は続いています。
実際、2026年の防衛予算だけでも数十億ユーロ規模の不足が見込まれていると指摘されています。
こうした軍事・外交・経済の要因が重なり、戦争は単なる戦場の戦いではなく「持久力の競争」になっています。
・ロシアは消耗戦と領土圧力で時間を味方につけようとしている
・ウクライナは西側の結束と支援を交渉上のカードにしようとしている
ゼレンスキー大統領が英国や欧州諸国を安全保障の中心に据えようとしているのは、この構図の中で交渉力を高めるための戦略です。
欧州が軍事支援・制裁・安全保障保証を強化すれば、モスクワにとって戦争を長引かせるコストはさらに高くなります。
その結果、ロシアに「戦って勝つことはできない」と認識させ、交渉に向かわせる――それがキエフの狙いだとみられています。