さらに2026年5月中旬時点でも、貯蔵率は**約34%**にとどまっており、EUが冬前の目標としている水準からはまだ大きく離れている 。
そのため欧州は、4月から10月までの「注入シーズン」に大量のガスを貯蔵へ入れる必要がある。
ホルムズ海峡は、世界のエネルギー輸送における最重要ボトルネックの一つだ。
カタールを含む中東からのLNG輸出の多くがこの海峡を通過する。現在の中東情勢では、船舶輸送やエネルギー施設への攻撃によってLNGの供給や輸送が混乱する可能性が指摘されている 。
実際に、紛争によってカタールの輸出能力の一部が制限されたとの報告もあり、海峡を通る船舶の動きが鈍ることで供給不安が広がっている 。
世界のLNG供給のおよそ5分の1がホルムズ海峡を通過するため、部分的な混乱でも世界のガス市場全体に影響が及ぶ可能性がある 。
欧州のガス貯蔵は「季節バッファー」として機能する。
しかし貯蔵を補充するには、柔軟に調達できる供給源が必要だ。
もし湾岸地域からのLNGが遅れたり減少したりすると、欧州は他地域のLNG貨物を奪い合う形になる。その結果、欧州は貨物を引き寄せるためにより高い価格を提示する必要がある。
物理的な不足が起きなくても、LNGの争奪戦そのものが価格の変動を拡大させる可能性がある 。
より根本的な問題は、欧州のガス供給構造そのものだ。
2022年以降、欧州はロシア産パイプラインガスへの依存を大幅に減らし、その代替としてLNG輸入を急拡大させた。
これは供給国の分散という点では安全性を高めたが、一方で次のようなリスクを欧州市場に持ち込んだ。
つまり欧州のガス供給は、以前よりも世界のLNG市場と地政学に強く連動する構造になったのである 。
現在のLNG中心の市場では、欧州は多くの場合より高い価格を支払えばガスを確保できる。
しかしそれは裏を返せば、供給の安定性が
「固定パイプライン契約」ではなく
市場価格の競争力に依存することを意味する。
貯蔵が低く、供給リスクが高まると、価格はすぐに上昇する。今回の€50/MWh超えは、まさにその典型例だ。
今後の欧州ガス市場は、次の要因に大きく左右される。
EU当局は、インフラ面では11月までに貯蔵率80%を達成する能力があるとしているが、その前提はLNG供給が十分に確保できることだ 。
つまり2026年の欧州は、数千キロ離れた海峡の安全保障が冬のエネルギー状況を左右するという、極めて複雑なガス市場に直面している。