彼女は、アメリカ、中国、ロシアといった大国はいずれも「分断された欧州」を望む傾向があると指摘する。EUが一枚岩であれば、これらの国と対等な地政学的プレーヤーになり得るためだ。
また、現在の国際情勢についても、ロシアのウクライナ侵攻、中東の不安定化、そして以前ほど強固ではなくなった大西洋関係などにより、国際秩序が大きく揺らいでいると述べている。
カラス氏が特に警告しているのが、EU加盟国が米国と個別に交渉することだ。
EUと米国は2025年7月、関税や貿易を巡る政治合意に達し、欧州委員会はこれを「安定性と予見可能性」を回復する第一歩と説明した。
しかしその後、合意の具体的な実施をめぐりEU内部では意見の相違が続いている。欧州議会や各国政府の要求が一致せず、交渉は難航していると報じられている。
欧州議会の交渉責任者ベルント・ランゲ議員も、米国からの輸入品関税撤廃に向けた協議について「進展はあるが、まだ道のりは残っている」と述べている。
こうした状況で加盟国がワシントンと個別に取引を始めれば、EUという単一市場の強みが損なわれ、欧州全体の交渉力が低下する。カラス氏が「EUとして一体で交渉すべきだ」と強調する理由はここにある。
欧州の結束を難しくしているもう一つの要因が、ロシアとの外交だ。
ウクライナ戦争を終わらせるため、EUがロシアと直接対話すべきかどうかについて加盟国の意見は分かれている。対話を急ぐべきだとする国もあれば、まずロシアの交渉力を弱めるべきだと主張する国もある。
このような政策の違いは、EUが対外政策で統一した立場を取ることを難しくしている。
ロシア側は、カラス氏が将来のEU側交渉役になる可能性について否定的な見方を示している。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、もしカラス氏がモスクワとの交渉を担当すれば「簡単な役割にはならない」と述べ、ロシアと厳しい言葉を交わしてきた人物が仲介役になるのは難しいとの認識を示した。
現在のEUは、いくつもの課題の同時進行に直面している。
まず、ウクライナ戦争をめぐる外交方針で加盟国の意見が割れていること。
さらに、米国との貿易摩擦や関税問題によって大西洋関係にも緊張が生まれている。
こうした状況のなかで、カラス氏の「欧州は団結しなければならない」という訴えは単なる理念ではなく、EUが国際政治で影響力を保てるかどうかに関わる現実的な課題として提示されている。