この分野を長く支配してきたのが、銅酸化物(キュプラート)系超伝導体です。
実際、約40年にわたり、常圧で30K以上の温度で超伝導を示す酸化物はほぼ銅系に限られていると考えられてきました。
しかしNUSの研究チームは、ニッケル酸化物 SmNiO₂ という材料で異なる可能性を示しました。研究では、この材料を正孔ドープすることで約40Kで超伝導状態が現れることを確認しました。
この発見のポイントは次の通りです。
この結果は、超伝導研究の探索対象が銅酸化物以外にも広がる可能性を示した点で重要とされています。
物性物理の世界では、Nature のようなトップジャーナルに掲載される研究は非常に限られています。
チョウはNUS物理学科に所属していた時期に、このSmNiO₂研究の論文の共著者として名を連ねました。
特に材料科学や超伝導研究では、新しい物質系の発見は分野全体の研究方向を変えることもあるため、研究者の評価や知名度に大きな影響を与えます。
この研究が世界的に注目された後、チョウは中国・浙江大学に移籍しました。報道によると、同大学では研究活動に加えて博士課程学生の指導にも関わっているとされています。
この移籍は、近年の大学界で見られるある傾向を象徴しています。
中国の主要大学は近年、次のような分野に重点投資を行っています。
大型研究予算、最新の実験設備、そして積極的な人材招へいプログラムにより、中国の大学は最先端研究の拠点として存在感を高めているとされています。
チョウのケースが話題になった理由は、大きく3つあります。
SmNiO₂の成果は、高温超伝導が銅酸化物だけの現象ではない可能性を示しました。
これは理論研究や新材料探索の範囲を広げる重要な手がかりになります。
科学の世界では、重要な成果を出した研究者を各国の大学が積極的に採用しようとする傾向があります。
特に材料科学や量子物質のような戦略分野では、この競争が強まっています。
かつては欧米が中心だった先端材料研究ですが、近年はアジア、とくに中国やシンガポールが重要な研究ハブとして台頭しています。
スティーブン・リン・アー・チョウのキャリアは、現代科学の特徴をよく表しています。ひとつの発見が、研究者の国際的評価や研究拠点の移動に大きく影響する時代になっているからです。
彼が関わった約40Kでの銅フリー超伝導という成果は、超伝導のメカニズム理解や新材料探索に新しい問いを投げかけました。
ニッケル酸化物系がさらに高い臨界温度を実現するのかは、今後の研究次第です。しかし、この発見が超伝導研究の方向性と世界の研究人材の流れの両方に影響を与えたことは確かだと言えるでしょう。