シャオミのXRing(玄戒)計画は、フラッグシップスマートフォンに自社設計プロセッサーを載せるだけの取り組みではなくなりつつあります。同社が打ち出したのは、プレミアム端末向けのXRing O3、ローカルAI推論向けのO100、インテリジェント運転向けのD100という、用途を分けた3チップ戦略です。
狙いは、スマホ、HyperOS、AI、スマートホーム、EVを連携させる「Human × Car × Home」構想で、ハードウェアとソフトウェアの統合度を高めることにあります。
5
19
まずは折りたたみスマホへ:XRing O3
O3は、XRing O1に続くシャオミの第2世代フラッグシップ向けモバイルSoCです。報道によるとTSMCの3nmプロセスで製造され、最初の搭載製品はXiaomi 18 Fold。タブレットのXiaomi Pad 9 Pro Maxにも採用されるとされています。
36
55
報じられている主な仕様は次の通りです。
- Arm C1系の10コアCPU:最大4.35GHzのC1-Ultra×2、3.68GHzのC1-Premium×4、3.15GHzのC1-Pro×4
- 16コア G2-Ultra NX GPU
- 200 TOPSのNPU(AI演算ユニット)
- LPDDR6メモリー対応
38
39
注目点は、一般的な「高性能コア+効率コア」という構成ではなく、性能重視コアを中心に据えたCPU設計です。ただし、QualcommのSnapdragon最上位品との性能・電力効率比較やベンチマークの数値は、メーカー発表または初期報道に基づくものです。製品版端末での持続性能、発熱、電池持ち、モデム性能、実ゲーム性能までを示す独立検証とは区別して受け止める必要があります。
37
43
48
O100が狙うのは、ローカルAIの「メモリーの壁」
XRing O100はスマホSoCの代替ではなく、大規模AIモデルの端末内推論に特化したアクセラレーターです。生成AIでは、演算器そのものだけでなく、モデルのデータを演算部とメモリーの間でどれだけ速く移動できるかがボトルネックになり得ます。
報道によれば、O100は6nmのロジックダイにAI向けDRAM 2層を垂直に積む、wafer-on-wafer積層とハイブリッドボンディングを採用。シャオミは近接メモリー演算帯域幅1.22TB/秒、自社のMiMo 3Bモデルで最大毎秒330トークンの推論をうたいます。
7
ただし、この数値の読み方には注意が必要です。1.22TB/秒は通常のシステムメモリー帯域幅ではなく、シャオミがいう「near-memory computing bandwidth(近接メモリー演算帯域幅)」です。また毎秒330トークンも、指定モデルと条件における結果であり、すべてのモデル、量子化方式、製品で再現される共通指標ではありません。
7
13
重要なのは派手な数字そのものより、クラウドへ都度送信せず、応答性の高い生成AIをローカルで実用化するためのメモリー設計に投資している点です。
D100はEVの車載演算へ
XRing D100は、XRingの射程を自動車に広げるチップです。3nmのインテリジェント運転向けプロセッサーとされ、20コアCPU、16コアNPU、最大160GBのユニファイドメモリーに対応。最大2000億パラメータのモデルをメモリー上に保持できる設計だと報じられています。
12
これは、車内のあらゆる運転処理を単一の巨大モデルへ任せるという意味ではありません。むしろD100は、認識、計画、AI機能といった処理を車載で低遅延に実行するための高性能基盤を、シャオミが自ら押さえようとしていることを示します。スマホに加えてEVも販売する同社にとって、遅延、統合性、長期のソフトウェア支援が重要な車載分野での半導体設計は戦略的な意味を持ちます。
O100とD100の商用展開は2027年予定
シャオミはO100とD100の開発完了を表明し、2027年の商用展開を計画しています。
5
一方で、搭載製品、車種、生産規模、販売地域、具体的な発売時期はまだ公表情報だけでは確定していません。現段階で最も明確な目標は「2027年」という時期です。
5
53
「自社設計」でもTSMCへの依存は残る
XRingはシャオミが設計するチップですが、同社が先端半導体の製造工場を保有しているわけではありません。O3はTSMCの3nm技術で生産されると報じられており、先代O1から続くファウンドリー関係です。
49
55
つまりXRingによってシャオミはチップ設計と製品統合の主導権を強められる一方、製造能力や生産実行については外部ファウンドリーに依存します。半導体サプライチェーンから完全に独立する話ではありません。
QualcommとMediaTekをすぐに置き換えるわけではない
O3の登場は、シャオミが全製品で市販チップを急速に排除するという意味でもありません。O1登場後もQualcommはシャオミの主要チップ供給元であり、Qualcommのクリスティアーノ・アモンCEOも供給継続を述べています。
49
59
調査会社Omdiaによると、2024年のシャオミ製スマートフォンのSoC調達では、MediaTekが63%、Qualcommが35%を占めていました。既存の供給基盤が非常に大きいことを示す数字です。
52
XRingは、QualcommやMediaTekからの全面離脱ではなく、戦略製品で差別化を図るための選択的な垂直統合と見るのが妥当です。幅広い価格帯と大量供給を支える市販プラットフォームを活用しつつ、シャオミは自社のフラッグシップ領域で、より密なハード・ソフト統合の経験を積もうとしています。
年間331億元の研究開発が支える構想
シャオミの2025年の研究開発費は331億元で、前年から37.8%増加しました。年末時点の研究開発人員は2万5457人。さらに同社は、2026年から2030年までの累計研究開発費が2000億元超になる見通しを示しています。
19
21
この予算はチップだけではなく、OS、AIモデル、コネクテッド製品、車両技術などを含みます。しかし、まさにそこに半導体戦略の意味があります。「Human × Car × Home」は、スマホ、HyperOSとAI、スマートホーム、EVが個別に動くのではなく、ひとつの協調した体験として機能することを目指す構想です。
17
19
O3は高性能な個人向け端末の演算を担い、O100は高速なローカルAIを目指し、D100は車へ演算能力を持ち込みます。最終的な評価を決めるのはベンチマークの一回の数字ではなく、これらを安定した消費者体験へと落とし込み、複数の製品をまたぐ技術基盤として育てられるかどうかです。