こうした巨大統合の過程では、報酬体系や組織構造、顧客担当の変更などが発生しやすく、トップバンカーの不安を招くことがある。そのため競合銀行はこの移行期を好機と見て、有力バンカーを積極的に引き抜こうとする。
ただし、こうした成長は逆に競合銀行の関心を高める。好調な市場ほど、有力バンカーを引き抜くインセンティブが強まるためだ。
銀行にとって真のリスクは、従業員の離職そのものではなく、顧客資産の流出だ。
湾岸地域のプライベートバンキングでは、バンカーが何十年にもわたり家族企業や富裕層と関係を築くケースが多い。投資運用だけでなく、融資、資産承継、クロスボーダー投資など幅広い助言を提供するため、関係は非常に密接になる。
もし顧客の一部が移籍バンカーに同行すれば、資産の流れは短期間で変わり得る。
UBSはクレディ・スイス買収により世界最大級のウェルスマネジャーとなった。その戦略の柱は、アジアと並んで中東の富裕層市場を取り込むことだ。
今後の焦点は大きく三つある。
まず、湾岸地域での採用を継続し、市場拡大の流れに乗ること。
次に、個々の「スター・バンカー」に依存しすぎないチーム型の顧客担当体制を強化すること。
そして、クレディ・スイス統合の最終段階で報酬やプラットフォームの安定性を確保し、トップ人材の流出を防ぐことだ。
今回の離職は、UBSの経営危機というより、プライベートバンキング業界の構造を示している。
湾岸地域の富は急速に増え続けている。そして、その資産をどの銀行が管理するかは、最終的にはバランスシートの大きさだけではなく「どのバンカーが顧客を担当しているか」によって決まる。
UBSが中東で成長を続けられるかどうかは、規模やブランド以上に、この人材戦争をどう戦うかにかかっている。
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