予算消滅のスピードは驚異的だった。ウーバーは2025年末にClaude Codeを導入し、トークン消費量で開発者をランク付けする社内リーダーボードを通じて、その利用を積極的に推奨した 。その結果、2月までにClaude Codeの使用量はほぼ倍増。3月にはウーバーの開発者の84%が「エージェント型コーディングユーザー」に分類され、IDEベースのツールで生成されるコードの65~72%がAIによるものとなった
。現在、ウーバーの社内AIコーディングエージェントは、毎週約1,800件のコード変更を自動生成している
。同社は最大限のトークン使用をゲーム化し、そのインセンティブがまさに狙い通りの結果を生み出したのだ。
根本原因は単なる熱意ではない。ウーバーは、20年にわたり予測可能なソフトウェアライセンスに機能してきた「1シートあたり」のSaaSの考え方で予算を組んでいた 。しかし、生成AIの料金体系は根本的に異なる原理で動いている。処理するトークン一つひとつが課金対象となり、請求額は何人が利用できるかではなく、どれだけ使われたかに比例して増えるのだ。ガートナー社は、エージェント型ワークフローは静的なチャットボットのやり取りと比較して、タスクあたり5倍から30倍ものトークンを消費すると報告しており、従来の予測では対応できないコスト曲線を生み出している
。
ウーバーは支出を測定したが、得られた成果を測定していなかった。技術者一人あたりの時間はどれだけ節約できたのか?バグはどれだけ回避できたのか?収益やライダー(乗客)の体験は何が変化したのか?こうした問いに対して、同社は明確な答えを持っていなかった 。
2026年5月、Business Insiderのインタビューで、ウーバーの最高執行責任者(COO)アンドリュー・マクドナルド氏は、この緊張関係を露わにした。マクドナルド氏は、シニアエンジニアリングリーダーとの協議を経て、AIの「トークンマキシング」に投じている資金を正当化するのが「ますます難しくなっている」と述べた 。同氏は、トークン使用量の増加が、実用的なコンシューマー機能の比例的な増加に結びついていないと指摘し、「その繋がりはまだ見えていませんよね? おそらく暗黙のうちに、より多くのものがリリースされているのかもしれませんが、『さあ、これでビジネスがより速く動くようになった』という統計とを結びつけるのは非常に難しい」と述べた
。
CTO自らも、AIのコスト管理について「振り出しに戻っている」と認めている 。これは、典型的なインセンティブのミスマッチを浮き彫りにしている。経営陣がリーダーボードや公開ランキングで強力にツール導入を推進した結果、制約のないトークン消費が自然なガバナー(制御装置)のないまま、歯止めの利かないコストを生み出すことを発見したのだ
。技術者たちは、使えば使うほど報われる構造の中で合理的にツールを使いまくった。そして今、ビジネスサイドは、その消費のいずれかが利益率、乗客体験、あるいは収益に貢献しているのか、合理的な疑問を呈している。
これはウーバーだけの特異な事例ではない。マイクロソフトも、AI搭載のコーディングアシスタントが、それが代替しようとする人件費よりも高くつく可能性があるという同様の調査結果を報告している 。企業全体に共通する構造的な課題は同じだ。生成AIツールはトークン単位で課金され、その価値の分離と測定は難しく、エンジニアリング組織内のインセンティブは効率性よりも最大消費へと向かわせる。
ガートナー社が指摘するエージェント型ワークフローの5~30倍のトークン乗数は、業界全体に当てはまる 。Claude Codeだけを見ても、2026年2月までに年間経常収益が25億ドルに達し、エンタープライズソフトウェア史上最速の立ち上がりを見せている
。支出は現実のものだ。しかし、そのリターンはまだ見えない。
ウーバーの事例は、大手企業がまだどこも解決できていない課題を浮き彫りにしている。使用量に応じてコストが拡大し、アウトプットの質を測定しにくく、競争力を維持するために採用を推進しなければならないテクノロジーに対し、どのように予算を組むのか。最高財務責任者(CFO)が明確な損益への影響を確認する必要がある中で、どう管理するのか。企業がトークン支出と測定可能な具体的なビジネス成果を結びつけるガバナンスモデルを構築するまで、「トークンマキシング」問題はウーバーの枠を超えて広がっていくだろう。AIへの真の投資収益率(ROI)、すなわち単なるトークン消費量ではなく、その効果を測定し最適化する方法を編み出した企業は、リーダーボードの順位よりもはるかに重要な競争優位性を手に入れることになる。
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