AIインフラの拡大は、PFAS(有機フッ素化合物群)に二つの需要経路を生み出している。ひとつはAIチップを作る半導体製造、もうひとつは発熱密度が高まるサーバーを動かすための熱管理・液冷だ。
ただし、これは「AIデータセンターでは必ずPFASを使う」という意味ではない。冷却方式も冷却液も複数あり、PFASを使わない選択肢も存在する。問題は、AI向けの性能・省エネ・水使用量の課題への対応が、環境中で分解されにくい化学物質の供給能力を新たに固定化しかねない点にある。
AIはどこでPFAS需要を増やすのか
半導体製造:AIチップの増産が上流需要に波及
ChemSecによると、PFASは半導体製造で界面活性剤、エッチング・洗浄工程、耐薬品性を持つチューブや継ぎ手などに使われる。AIアクセラレーターやメモリー、それらを生産する装置への需要が増えれば、半導体工場(ファブ)の上流でこうした特殊材料の需要も増え得る。
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PFASとの接点はサーバー本体だけにとどまらない。NRDCは、データセンターに関わるPFASの用途として、冷却、消火、半導体その他の電子部品の製造を挙げている。
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高密度サーバー:液冷、とりわけ二相浸漬冷却
計算密度と発熱量が上がるほど、空冷だけで熱を処理する難度は高くなる。浸漬冷却は、電子機器を電気を通しにくい誘電性液体に浸して冷却する方式だ。
より一般的な単相式では、液体は沸騰せず循環する。ポリαオレフィンなどの炭化水素系液体が用いられることがある。一方、二相式では、発熱部でフッ素系冷媒が沸騰して蒸気となり熱を運び、凝縮して再循環する。
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この二相式がPFAS需要につながり得る経路だ。ChemSecは、AI・データセンターインフラ向けの浸漬冷却液と熱管理を、PFAS生産能力拡大の要因として明示している。
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有用性と環境リスクは表裏一体
PFASは、耐熱性、撥水・撥油性、耐薬品性、電気絶縁性といった特性から、厳しい化学処理や高温環境、精密電子部品を扱う用途で重宝されてきた。
しかし、その壊れにくさこそが最大の環境懸念でもある。PFASは環境中で容易に分解されにくく、「永遠の化学物質」と呼ばれる理由になっている。Food & Water Watchは、データセンターの冷却システムが水使用量を減らす場合があっても、持続性の高いPFASの追加的な使用経路になり得ると指摘する。
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したがって焦点は、液冷そのものを否定することではない。効率や水資源対策のための冷却技術で、どの材料を選ぶのか、そして使用後を含むライフサイクルをどう管理するのかという問題である。
増産する企業、撤退する企業
ChemSecの2026年9月の調査は、例外を除けば主要PFASメーカーの多くが生産能力を拡大しており、その背景にAI・データセンター、半導体、電池の需要があるとしている。Chemours、Syensqo、Arkema、Solstice、Daikin、AGCは、AIや半導体製造を関連投資の文脈で明示している企業として挙げられた。
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Chemours:半導体材料と二相冷却液を軸に展開
ChemoursはAI関連戦略を公表している代表例だ。
- 同社は、半導体製造に不可欠と位置付けるTeflon PFAの生産能力拡張を2024年に完了したとしている。
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- Navin Fluorine Internationalと、Opteonブランドの二相浸漬冷却液を製造する契約を結んだ。この事業は、高度なデータセンターとAIハードウェアの熱、電力、水の課題に対応する液冷事業の拡張の一環とされる。
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- DataVoltとは、二相直接液冷(direct-to-chip)や二相浸漬冷却を含む液冷技術の開発・実証で合意した。
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Chemoursは、規制当局の承認を前提に、Opteon二相浸漬冷却の商用化を2026年に見込むとしている。また冷却エネルギー削減の可能性も示しているが、これらは同社による性能訴求であり、すべての導入環境で独立検証された結果を意味するものではない。
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3M:撤退で変わる供給構造
3Mは2022年、PFAS製造を2025年末までに段階的に終了すると発表した。Data Center Dynamicsによれば、同社のNovecとFluorinertの製品群は、冷却、半導体製造、火災防止に用途があった。
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つまり、業界全体が一斉にPFASから離れているわけではない。3Mの撤退と並行して、他社が半導体や先端冷却の需要を取り込もうとしており、供給構造は組み替わっている。
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市場規模はどこまで分かっているか
AIインフラに起因するPFAS需要だけを切り出した、信頼できる公開市場規模は、提供資料からは確認できない。ChemSecの分析も、生産量の予測ではなく、設備拡張計画と需要要因に焦点を当てている。
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参考になるのは、PFASに限定されない浸漬冷却液市場だ。MarketsandMarketsは、データセンター向け浸漬冷却液市場が2025年の1億8,000万ドルから、2032年には8億3,000万ドルへ拡大し、年平均成長率は23.9%になると予測する。ただし、この市場には直接液冷用・浸漬用の各種液体が含まれ、フッ素系またはPFAS系に限った数値ではない。
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規制とPFASフリー代替技術
米国では、環境保護庁(EPA)が有害物質規制法(TSCA)に基づく審査で、データセンタープロジェクトや関連製造向けの新規化学物質を優先審査の対象にし始めた。
16 一方で、報告義務や将来的な規制強化の可能性を受け、データセンター事業者はPFASに関するサプライチェーン上のリスクを検討する必要が高まっている。
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代替策もすでにある。単相浸漬冷却では炭化水素系の誘電性液体が使われることがあり、市場では非フッ素系合成液、エステル、シリコーン、バイオベース液の開発も進む。
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42 直接液冷や空冷設計の改善によって、二相浸漬冷却が不要となる構成もある。
ただし、非PFAS製品がすべての半導体工程や、すべての高密度二相冷却用途でそのまま置き換え可能だと示す証拠はない。材料認定、信頼性、安全性、システム設計が実装可否を左右する。
AIインフラが突きつける選択
データセンター建設側にとって問われるのは、液冷を増やすかどうかだけではない。効率向上や水使用量の抑制を目指す際、代替材が利用可能なのか、開発途上なのか、あるいは個別用途には適さないのかを見極めたうえで、長期残留性を持つフッ素系材料を採用するのかという選択だ。
ChemSecは、PFAS削減・廃止の動きが強まるなかで、AI需要が新たなPFAS生産能力を固定化するリスクを警告している。
31 NRDCの視点では、論点はサーバールームの冷却液に限らず、半導体製造、消火、廃棄・回収までを含むライフサイクル全体に及ぶ。
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重要なのは、AIが高度な熱管理への需要を加速させていることと、その実現にPFASが唯一の選択肢だとみなすことを分けて考えることだ。前者は進行している。後者は、技術・規制・環境の観点から選び直せる余地がある。