重要なのは、これはTSMCの弱さではなく、AIサプライチェーンの中でどこに最大の成長余地があるかという投資家の視点が変化していることを意味している。
TSMCは依然としてAI半導体の中心的存在だ。NvidiaやAppleなど多くの企業が高性能プロセッサーの製造を同社に依存しており、先端プロセスや先進パッケージングの需要は急増している。
それでも市場のストーリーは変わり始めた。
AIシステムは単なるGPUだけでは動かない。チップ設計、メモリ、サーバー、冷却、電力供給など、複数の技術が同時に必要になる。投資家は今、その「AIスタック全体」を対象に投資し始めている。
特に、供給不足が発生している分野は価格決定力が強く、株価上昇の余地も大きいと見られている。
台湾のMediaTekは従来、スマートフォン向けプロセッサーで知られる企業だが、AI時代には別の役割で注目を集めている。
近年、クラウド企業や巨大IT企業(いわゆる「ハイパースケーラー」)は、特定のAI処理に最適化した**カスタムAIチップ(ASIC)**を開発する動きを強めている。
こうしたチップの設計には、MediaTekのようなファブレス半導体企業が関与するケースが増えている。例えばAlphabet(Googleの親会社)は、AI向けカスタムチップの開発で設計企業との協力を進めていると報じられている。
TSMCが「チップを製造する会社」だとすれば、MediaTekのような企業はそのチップが何をするかを設計する会社だ。ハイパースケーラーが独自シリコン戦略を強めるほど、設計企業は直接的な成長の恩恵を受けやすくなる。
この構造が、株式市場でMediaTekの評価を押し上げている。
AIハードウェア市場で最も大きな構造変化の一つは、メモリ不足だ。
AIモデルの学習や推論では、GPUやAIアクセラレータが膨大なデータを高速に処理する必要がある。そのため、通常のメモリよりも高速な**HBM(High Bandwidth Memory)**と、大量のサーバーDRAMが不可欠になる。
しかし、AIデータセンター建設の急増により、このメモリ供給が需要に追いついていない。
その結果、メモリ価格は急騰している。
さらに、SamsungやSK hynixなどのメーカーはAI用途で利益率が高いHBMの生産を優先しており、通常のDRAM供給はさらに逼迫している。
Samsungは、AI需要によるメモリ不足が少なくとも2027年まで続く可能性があると警告している。
このような供給不足の環境では、メモリメーカーは価格決定力を持ちやすく、株式市場でも評価が高まりやすい。
2026年の市場で明確になったのは、AIインフラには複数のボトルネックが存在するという点だ。
現在注目されている主な制約は次のような分野だ。
AIサーバーは非常に電力密度が高く、世界のAIサーバー電力容量は前年比約74%増と急拡大すると予測されている。これに伴い、液体冷却などの新しい冷却技術の需要も急増している。
投資家は現在、単一の半導体企業ではなく、こうしたボトルネックを握る企業へ資金を配分し始めている。
アジアのAI株ラリーは、地域ごとに役割が分かれている。
台湾の強みは、半導体からAIサーバーまで広がる総合サプライチェーンだ。TSMCに加え、Foxconn、Quanta、Wistron、WiwynnなどAIサーバー製造企業にも需要が波及している。
一方、韓国の強みはメモリである。SamsungとSK hynixはAIアクセラレータと組み合わせて使われるHBM市場をほぼ支配しており、AIインフラの核心的な供給源となっている。
背景には、巨大なデータセンター投資がある。米国のクラウド企業は2026年までに約7,500億ドルをデータセンターに投資すると予測され、その多くのAIハードウェアがアジアで生産される見込みだ。
こうした投資テーマの拡大にもかかわらず、TSMCは依然としてAI産業の柱だ。
同社はAI需要に支えられて記録的な売上成長を続けており、高性能コンピューティング(AI関連)が売上の過半を占めるまでになっている。
ただし2026年の市場では、投資家は一つの企業だけを見るのではなく、AIを動かすすべてのハードウェアに注目している。
つまり現在のAI株ラリーは、「誰がチップを作るか」だけではなく、AIを動かすために必要なすべての技術をめぐるエコシステム全体の成長を反映したものになっている。