セキュリティ部門にとっての実務上の利点は、AIの利用方針を従業員個人の判断だけに委ねず、管理対象端末の設定に組み込めることです。
データを外部サービスへ送る必要がない処理であれば、クラウド処理を必要とするタスクと同じデータ経路をたどらずに済みます。接続環境が限られる現場や、遅延を抑えたい業務、事件情報や個人情報など取り扱いに注意が必要なデータでは、この違いが重要になります。
もっとも、Galaxy AIのすべての機能が端末内で動作するわけではありません。また、オンデバイス処理であっても、組織が独自に行うデータ保護やリスク評価が不要になるわけではありません。導入側は、処理方式に応じて機能を評価し、異なる利用ポリシーを適用する必要があります。
現場業務では、端末は単なるソフトウェアの入れ物ではありません。担当者は机を離れて活動し、証拠や状況をその場で記録し、厳しい環境でも業務を継続する必要があります。
そのためサムスンのアプローチでは、AIの機能だけでなく、Galaxy端末、端末管理、企業向けソフトウェアのエコシステムをまとめて扱います。
2026年のMilipol TechXでは、Samsung SingaporeがHTX、Viasat、Versaterm、Airbus、HeadwallVRなどのパートナーとともにRapidCaseを紹介しました。展示では、現場向けの堅牢なモビリティ、端末や車両の管理、証拠を扱う業務フロー、没入型の指令センター体験などが取り上げられました。
ここで重要なのは、セキュリティ機能を備えた端末だけでは業務が完結しない点です。AIをオフィスの外で役立てるには、通信、情報の記録、連絡、訓練、指令センター向けツールまでが連携する必要があります。
HTXとFortifyedgeの取り組みは、事件報告とは異なる現場向けAIの例です。仮想トレーナー、適応型トレーニングシステム、現実感のあるAIアバターを使い、Home Teamの利用者を対象とした複合現実の訓練を支援します。HTXは、職員の生理・行動データを取得するセンサーを搭載したスマートウォッチ上で動作する実証についても説明しています。
この事例は、企業向けエッジAIの用途が、現場情報の即時処理だけに限られないことを示します。AIは訓練や職員の状態把握にも利用され得ますが、その場合は特に慎重な管理が必要です。個人に関わるデータを扱うため、明確なガバナンス、同意、保存期間のルールが求められます。
サムスンとHTXの取り組みからは、ミッションクリティカルな業務にAIを導入する際の実務的なチェックリストを導けます。
サムスンが目指しているのは、単独のAIアプリではなく、管理されたエッジAI基盤です。Galaxy端末を現場の接点とし、Knoxで利用ポリシーを管理し、適切なタスクでは端末内処理によってクラウド依存を抑え、専門パートナーが業界固有の業務フローを補完する構図です。
現時点での最も現実的なメッセージは、すべての機密業務が自動化に対応できるということではありません。処理場所とガバナンスを導入設計に組み込みながら、組織がAIを段階的に取り入れられるという、より慎重なモデルです。