これは、エッジでの軽量なAI推論タスクにおいて、単体のAIアクセラレータを不要にし、CPUパッケージに統合されたGPUだけで完結させることで、システム全体のコストと筐体サイズを低減する戦略と言えるでしょう。 インテルがエッジAI市場を重視する傾向は、すでに正式発表された製品からも明らかです。例えば「Core Ultra Series 3」プロセッサは、拡張温度範囲への対応や長期安定稼働(24時間365日)といった、組み込み・産業用途での認証試験をクリアしています。 Pコアを搭載しないNova Lake-AXは、この戦略の最もアグレッシブな表現形となるでしょう。なお、このAX派生モデルは、Nova Lakeのメインストリーム向け製品と同時期ではなく、次世代にあたるRazor Lakeの時間軸で、リブランドされる形で登場する可能性も指摘されています。
Nova Lake-AXがエッジAIへの一手だとすれば、Titan Lakeファミリー(およびその派生であるSerpent Lake)は、内蔵グラフィックスが伝統的に弱点とされてきた「高性能モバイル」と「コンパクトゲーミング」市場への、極めて大胆な回答です。
2028年頃の登場が噂されるTitan Lakeは、複数のサプライチェーン情報を総合すると、デスクトップ版の存在しない、モバイル専用プラットフォームとして計画されています。 そしてこのファミリーから派生する「Serpent Lake」こそが、インテルが設計するSoCとして初めて、NVIDIAのGeForce RTX GPUチップレットを同一パッケージに統合する製品になると伝えられています。リーク情報の詳細は驚くべきものです。マザーボード上にCPUとGPUを別々に実装する従来の方式とはまったく異なり、このSoCは、インテル自身のx86 CPUチップレットと、NVIDIAが供給するRTX GPUチップレットを、インテルの先端パッケージング技術である「Foveros(三次元積層)」と「EMIB(シリコンブリッジによる水平接続)」を用いて物理的に直結し、一つのパッケージに封止する設計とされています。
製品はインテルブランドで販売され、AMDが推進する高性能APU「Strix Halo」シリーズと真っ向から競合するポジショニングとなります。 ターゲットは、高性能ゲーミングノートPCや携帯型ゲーム端末(ゲーミングハンドヘルド)、そして単体グラフィックスカードを搭載するスペースのない超小型デスクトップPCです。つまり、「外付けGPUが物理的に無理」なデバイスで、それに匹敵するグラフィックス体験を実現しようというわけです。搭載されるNVIDIA製GPUタイルのアーキテクチャは、同社の次世代「Rubin」または「Rubin-Next」がベースとなり、TSMCの3nmクラスプロセスで製造されるとの見方もあります。 ソフトウェア面でも、NVIDIAの超解像技術「DLSS」への対応は大きなアドバンテージになると期待されています。
なお、この構想の根幹にある、インテルとNVIDIAによる「x86 SoCでのRTX GPUチップレット共同開発」というパートナーシップは、2025年末に両社から正式に発表され、すでに事実として確認されています。 コードネームや時期は未確定でも、Serpent Lakeはこの提携がコンシューマ市場で結実する最初の具体的な姿となるでしょう。インテルのCPUが、自社開発の「Arc」グラフィックスを完全に放棄し、NVIDIAのRTXタイルを選択する――これは、両社の長い歴史においても特筆すべき転換点です。
ロードマップのさらに先、2029年頃の登場が予想される「Hammer Lake」は、近年のインテルのCPU設計思想を根本から覆す、二つの重大な変更を伴うプラットフォームになると見られています。
① Pコア/Eコアの垣根をなくす「統一コアアーキテクチャ」への移行
現在のインテル製CPUは、設計思想のまったく異なる高性能コア(P-core)と高効率コア(E-core)を組み合わせるハイブリッド構成です。リークによれば、Hammer Lakeはこの方式を段階的に廃止し、全コアを同一のアーキテクチャで統一する「統一コア(Unified Core)」設計をデスクトップに本格導入するとされています。これは、AMDが「Zen 5」と、そのダイサイズを縮小した省面積版「Zen 5c」の関係に近いアプローチです。命令セットも機能も同じコアで統一し、高密度実装版(Dense版)だけレイアウトを小型化したり、一部のキャッシュを削減したりする形になります。
この移行は、まずモバイル向けのTitan Lakeで「Copper Shark」というコードネームの第1世代統一コアから始まり、Hammer Lakeで「Thunder Hawk」と呼称される第2世代の統一コアがデスクトップにもたらされるとリークされています。
② コンシューマ向けCPUへのHyper-Threading(SMT)復活
もう一つ、多くのPCユーザーが注目するであろう大きな変化が、同時マルチスレッディング(Simultaneous Multithreading: SMT)、インテルのブランド名で言うところの「Hyper-Threading Technology」の復活です。インテルはLunar LakeやArrow Lakeから、コンシューマ向けCPUのSMTを廃止しました。これにより、1つの物理コアで2つのスレッドを同時実行する能力が失われました。当時の技術責任者は、Eコアの性能向上によりSMTは不要になったと説明していました。
しかし、2025年に就任したリップ・ブー・タン新CEOがその判断を公式に「誤り」だったと認め、SMTの廃止は「競争上の不利」を生み出したと公言し、「パフォーマンスギャップを埋めるために」復活させる考えを表明しました。 リーク情報は、このSMT復活の舞台がHammer Lakeになると指摘しています。サーバー向けプロセッサ「Coral Rapids」での先行導入を経て、Hammer Lakeの「Thunder Hawk」コアでコンシューマ市場へと戻ってくる見込みです。
Pコア/Eコアの分離をなくした統一コアと、約5年ぶりのSMT復活。この二つが組み合わさったHammer Lakeは、タスクのスケジューリングやスレッドの拡張性において、現在のArrow LakeやNova Lakeとはまったく異なる挙動を見せる、極めて「フラット」で巨大な処理能力を持つCPUアレイへと進化する可能性を秘めています。
流出したロードマップ情報に基づく、2020年代末までの大まかな展開は以下の通りです。
重ねて強調しますが、ここで紹介したロードマップの詳細はすべて、サプライチェーンリークや、MLID(Moore's Law is Dead)、Jaykihnといった著名リーカーからの情報に基づくものです。これらの製品計画はいずれも、インテルによって公式チャネルで確認されたものではありません。
この先数年のロードマップは流動的であり、初期計画から量産までの間に、コードネーム、コア数、投入時期、アーキテクチャの特徴が変更されることは業界の常識です。唯一、確固たる事実として存在するのは、インテルとNVIDIAがx86 SoCとRTX GPUタイルの共同開発で提携すること、これが両社により正式に確認されているという点です。
それ以外の情報は、現時点での「最も有力な方向性を示す指標」と捉え、確定した発売計画として扱うべきではありません。それでも、エッジAI、NVIDIAとの共闘、そして一度は捨てた技術への回帰――このロードマップが示す変化のベクトルは、極めて大きなインパクトを持つことだけは確かです。