AIは定型業務を効率化します。しかし、その定型業務は新人にとって、仕事の基本を身につけ、判断の経験を重ねる場でもありました。そうした機会が減れば、企業は将来の熟練人材を育てる道筋まで失いかねません。必要なのは、従来の業務をそのまま残すことではなく、若手の仕事に学習と指導を組み込むことです。
研修で知識を伝えても、実務の練習になるとは限らない
Forbesのコラムで、学習管理システム「Canvas」を手がけるInstructureの最高顧客責任者、レイチェル・オーストン氏は、企業が本当に社員を「訓練」できているのかと問いかけています。よくある研修は、プレゼンテーションを見て、製品情報や社内規則を学び、テストを受けたら現場に出る、というものです。
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この方法でルールを伝えることはできても、状況が曖昧だったり、情報が足りなかったり、顧客が標準手順を超える支援を求めたりする場面で、そのルールをどう使うかまでは身につかないことがあります。定型的な仕事を繰り返す経験は、状況のパターンを見分け、次の行動を選ぶ練習にもなります。AIがそうした仕事を担うようになれば、新人が例外的な案件に直面する前に経験を積む機会は少なくなるかもしれません。ただし、自動化された業務がすべて有益な学習機会だった、という意味ではありません。
練習から判断へ、段階的に進める
AIに適した定型業務を任せながら、新人が難しい案件への対応だけで仕事を覚えることにならないよう、オンボーディングを組み直す方法があります。たとえば、次のような段階を設けられます。
- 基礎を自分で経験する。 AIの回答に頼るだけでなく、基本的な業務を実際に行い、手順の意味を理解する。
- 現実に近いケースで練習する。 例外、矛盾する情報、上司への相談が必要な場面を含むシミュレーションやロールプレイを取り入れる。
- 判断の過程を振り返る。 どの情報を根拠にしたか、AIの提案を採用・却下した理由は何か、人の判断が必要だったのはどこかを一緒に確認する。
- 支援を受けながら責任を広げる。 習熟度に応じて仕事の難度を上げ、経験者が助言やフィードバックを行う。
これは、自動化で減る可能性のある実務経験を、構造化した練習と振り返りで補うための提案です。シミュレーションやコーチングだけで問題が解決すると、実証されているということではありません。
若手の仕事が変わるなら、育成の設計も変える
Vanessa Tang氏は『The Straits Times』で、入門レベルの業務が自動化されても、新人を将来の上級職に向けて育てる必要はなくならないと論じています。
36 若手の仕事には、目の前の業務を担う役割と、将来より大きな責任を担うための経験を積む役割があります。
企業が見るべきなのは、制度を「インターンシップ」や「見習い制度」と呼ぶかどうかだけではありません。実際に意味のある仕事を任せ、指導やフィードバックを行っているかどうかです。定型業務をAIに任せるなら、残る仕事を学びの道筋として、より意識的に設計する必要があります。
シンガポールの事例には、若手の仕事や就業経験を見直す二つの動きが表れています。『The Straits Times』によると、若手のソフトウェア開発者には、AIが作成したコードの草案について、安全性や論理性、業務との適合性を確認する役割が期待されています。
18 定型的なコードを書く仕事の一部が、AIの出力を評価する仕事へ移る例です。また、Channel NewsAsiaは、高等教育機関の学生向けに、今後3年間で約3,000件の1年間のインターンシップが設けられると報じています。
17 一方は若手が担う業務の再設計、もう一方は職場経験を得る機会の提供であり、異なる形で経験の確保を目指しています。
若手雇用のデータは、何を示し、何を示さないのか
スタンフォード大学の研究は、若年層に偏ったリスクを示しています。公表された結果では、AIの影響を受けやすい職種のうち、22〜25歳の若手で雇用の減少が目立ち、その傾向は年齢の高い層では弱まり、最終的に見られなくなります。
49 また、企業ごとのショックを考慮した研究では、影響を受けやすい職種の若手雇用が、相対的に13%減少したと報告されています。
52 これは比較対象に対する相対的な減少であり、若手の入門職全体が13%なくなったという意味ではありません。
因果関係については注意が必要です。スタンフォード大学は「Canaries Dashboard」が示すのは、職種のAIへの曝露度と雇用動向との相関であり、因果関係ではないと説明しています。
51 したがって、特定の層で偏った変化があることは懸念材料ですが、AIだけがその変化を引き起こしたと研究が証明しているわけではありません。
別のForbes記事が紹介した米国国勢調査局の研究では、AIの影響を強く受ける専攻の卒業生は、影響の小さい分野の同世代と比べ、卒業後の初期の四半期収入が約13%低かったとされています。
58 収入は雇用者数とは異なる指標であり、この数字を失われた仕事の数として読むことはできません。また、スタンフォード大学がまとめた他の研究では、AIの影響を受けやすい職種でも採用の変化は多くて小幅とされており、複数の結果を一つの断定的な結論にまとめるのは避けるべきです。
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実務上の結論は、「AIが新人の仕事をすべて奪う」でも、「採用が変わらないなら何も変わっていない」でもありません。若手の雇用リスクには偏りがあり、若手が担う仕事の中身も変化しています。企業は採用状況だけでなく、新人が支援を受けながら経験を積み、熟練者に必要な技能や判断力を身につける道が残っているかも確かめる必要があります。